第六話 一寸先は闇
地上ではグレンダの軍が妖しい企みをしているなか炭鉱夫たちはカニング炭鉱の下層にまで逃げ帰っていた。
「ここは…?」
「旧事務所跡地だ、数十年前まではここを拠点に採掘をしてたんだよ」
アレックスはそう言うと抱えていた親方を寝かせて治療を始めた。
「チッ…薬が腐ってやがる…これは不味いな」
薬の効用を確かめた後、彼はガーゼで傷口を縛りつけた。一方、グレンは錆び付き始めた鉄板の中からなるべく状態の良い物を選びロウの修理を始めた。幸い内部の電気系統には大きな傷は見当たらなかった。
『マスター…ワタシハ…?』
「大丈夫、外部装甲がやられただけだ」
内部に傷が無いとは言えど、ロウはどこか調子が悪く見えた。精神的な面でも人間に近づいているようなそんな様子だ。
「うっ…うぅ…」
「親方!あまり喋らないで下さいっ!」
「グレンか…?アレックスはどこに…?」
「親方!俺はここです!」
ダンカン親方が目を覚ますとグレンとアレックスが駆け寄った。
「他のやつらは…?」
「親方…!俺が様子を見てきます。グレン!親方を頼んだぞ!」
「は…?」
グレンが呆気にとられているとアレックスは外へと出ていってしまった。グレンと二人きりになったのを確認すると親方は彼にある話をしてきた。
「グレン…お前ここで働き始めて何年になる…?」
「ろ、六年目になりますが…」
「そうか…早いもんだなぁ…」
「そんなこと聞いて…なんですか?」
いきなりそんな事を聞いてきた真理をグレンには読み取れずにいた。
「今日限りをもって…グレン…お前を…クビにする…」
「な、何でですかっ!村が焼かれたからですかっ!それならホロウスから逃げて別の場所でまた一から始めれば…!俺は親方についていくと誓ったのでどこにでも着いていきますよ!」
「落ち着け…グレン、そうじゃあ無いんだ…」
「ならなぜっ!」
口調からしてダンカン親方はもう死に際だ。だが、グレンにはそれが分からなかった。いや、分かりたくなかったのかもしれない。
「俺の体ももうもたない…かなり傷口が深いみたいだ…」
「ですがっ!」
「退職金は用意出来なかった…だがこのルビーを持っていくと良い、金に困った時はそれを売って食い繋げっ…!」
「でも…でも、どこに逃げれば…!」
「良いかグレン…良く聞け…!ここからレヴァ川を挟んで南に進むんだ…!コールランド領に入ってしまえばホロウス軍の奴等は下手に手出し出来なくなる…っ!…ッグァ!」
「親方っ!」
喋り過ぎたのか傷口から再び大量の血が溢れだしてきた。
「問題無い傷口が開いただけだ…」
「待ってて下さい!今、傷口を塞ぎますからっ!」
「いや、いい…。それより入り口とは反対側に立て掛けてある板を外してみろ…」
「えっ…?」
親方の言い付け通り板を外してみるとそこには巨大な抜け穴があった。ロウでも入れそうなその穴からは冷たいすきま風が吹き荒んでいた。
「これは…!」
「親方!グレン!やつら火を放ちやがった!ここも危ない!」
アレックスはそう言いながら駆け戻ってきた。開いた入り口からは抜け穴とは反対に生暖かい風が吹いてきた。この温度だと火元も近い。
「グレン!ロウ!行けっ!今はただひたすらに逃げて逃げて生き延びるんだっ…!」
親方はそう言うと文字通りグレンの背中を押した。勢いで抜け穴から飛び出した、後ろを振り向くとバックドラフトのような大きな音と共に元居た部屋が炎に包まれていた。
「畜生…畜生っ…!いつか、必ず…!」
いつか必ず、この村を取り戻す。グレンはそう誓うと深い深い闇の中をただひたすらと駆けていた。
プロローグ終わりです。次回から新章に入ります。