第五話 窮地に至る者たち
「我々は喋るロウボットを探している。返答次第ではお前たちの命も保証できない」
喋るロウボットと言えばこの村ではロウしか居ない。グレンがロウに合図を送ると困ったように首を傾げた。
「知りませんよ」
「そうか、ではそのロウボットは何なのだ?」
やはりロウの事を不審がられている。
軍ですら上層部の人間にしか支給されない貴重品なので無理も無いのだが…。
「俺が造ったんですよ」
「ほう…珍しい」
「大佐!関心してる場合じゃないですよっ!」
「少尉、お前は黙っていろ。これは私の任務だ」
どうやら隣に居る少尉と呼ばれた兵士はまだ冷静さを保っているようだ。
一方でそれを見ていたロウは震えている。
「なんだ?怒っているのか?」
グレンの後ろで今にも飛び出しそうなほど怒りを露にしているロウ。グレンは再び目配せをするがとうとう怒りのままに藍色のロウボットに飛び掛かった。
『ユル…サナイ…ッッ!』
ロウよりも一回りも二回りも大きなそれは堂々と仁王立ちしている。
ドリルの要領で掘削機を作動させ、ただひたすらに突きまくるロウ。
しかし、傷一つ付かない。
「む…やはりこいつか。だが無意味、そいつは政府最新鋭の機体【インディゴ06】だ。抵抗するだけ無駄よ」
「ロウ…!止めるんだ!それ以上は…!」
グレンの必死な叫びも虚しく、ロウは止まらない。
『ユルサナイッ…!ユルサナイッ…!』
「インディゴ、殺れ」
グレンダの掛け声一つで藍色の機体は動き出す。武器は使わず、正拳突きのみでロウを振り払うその力は計り知れない。
炭鉱前の大岩にぶつかると大きく鈍い音が聞こえた。
「驚いたか?こいつは遠隔操作も出来る、これ以上無駄な抵抗はよせ」
「くっ…ロウ…!」
「なんてやつだ…貴様!ロウに…!」
グレンはロウの元へと駆け寄る。親方はグレンダに殴りかかった。
が、彼女は素手で受け止めた。
「あまり軍人を甘くみるのではない…」
彼女はそう言うと片手で捻り還した。うずくまる親方を横目に彼女はロウの元に兵を集める。
「グレン!ロウ!親方!こっちだ!」
アレックスが炭鉱の方へと指を指す。炭鉱か、確かにそこならば軍のロウボットは入れない。防空壕の役割も果たす。
「わかった!ロウ、動けるか?」
『イエス、マスター…』
「よし、炭鉱へ走ろう。親方もこっちに…!」
「ああ…」
ロウが兵を振り払うとグレンと親方を乗せて炭鉱へと一目散に走りだした。アレックスが道を先導する。
「大佐!どうします!?」
「待て、慌てるな。この状況で後追いするのは愚策だ。」
「では…?」
「こんな話がある。ある国ではゲリラ戦の為の策として大きな砦となった防空壕があった。それを知った敵国はどうしたと思う?」
グレンダ大佐からの質問に少尉は息を飲む。そして答えられずにいた。
「それは…私には分かりかねます…」
「火炎瓶を投げ込んだのさ」
「火炎瓶!?」
これ以上無い残虐な行為だ。そしてインディゴの左腕には巨大な火炎銃が。この二つが意味するものとは…。