第四十三話 全てを賭けた戦い
「貴様も刃を使うのか?」
エルデアは少しばかり警戒をしてみせた。やはり、刀の登場は予想外だったのであろう。
「日之国は鎖国中の筈だ。なぜ貴様らが東の国の文化を持つことが出来るのか、私にはわかりかねるな」
と、エルデアは質問を重ねる。
すると豪快にローランが答え始めた。
「忘れていたのか?この機甲団は世界中に400人の選りすぐりの伏兵が居るんだぜ!中には各国の首脳との太いパイプをもってやがる野郎もいる。この意味が分かるかっ!」
「実態だったな、次からは…」
エルデアがそう言いかけた瞬間、彼の左腕を熱い鉄の弾丸が貫いていた。
部屋中に轟音が響き渡る。
「なっ…!これは…」
「おっと…忘れてたぜ。最初の質問だがな…ゲルルフ(こいつ)は銃の名手だぜ」
流石に皇帝の体でもこの一撃は痛かったようで先ほどとは顔色が変わって見えた。
「ロゼッタァ!!」
魔術師のように指を捻らせるとロゼッタ・ストーンが嘶いた。無数の長方形状の欠片に分裂するとエルデアの手のひらの上で円環に回転する。クリスタルのように透き通ったその石は薔薇のように紅い。
「何をする気だ?」
「予定とは…少し早いが。最終作戦を発動させよう…!!」
エルデアはそう言いながらロゼッタ・ストーンを握り潰した。ガラスの割れたような音と共に丸い軌道を描いていたそれは辺り一面に飛び散ったかと思われた。
だが、すぐに彼の手のひらに戻っていくと紅い刃に変わっていった。
「ロゼッタ…ブレイド…!」
「…っ!」
ローランは咄嗟にゲルルフに目配せをする。エルデアの企みを察した彼は即座に今度は右肩を狙って撃つ。ショットガンから熱い弾丸が流れるように、しなやかに飛び出した。やがて一秒もしないうちに何か鉄を切り裂く音が聞こえてエルデアを背に艦内が大爆発した。
傾く艦、ローランは一瞬体制を崩す、ゲルルフは柱に隠れていた。そして燃え上がる炎の中からはエルデアが顔中を煤で真っ黒にしながらゆっくりとこちらに向かっていた。
ゲルルフは彼の足元に向けてグレネードを投げ込んだ。再び大きな炎がエルデアを包み込んだ。この場にいる二人ですらやったと思った。
が、間もなくその希望は打ち砕かれた。
刃を一振り、すると炎が消し飛んだ。中からは涼しい顔をしたエルデアが現れた。
「惜しかったな。こんな前時代的な兵器で我を倒せると思ったか?」
「なんて野郎だ…」
「さあ、フィナーレだ。アルフ、デル、ゼタここに…」
エルデアの飛び声で各部屋で交戦中であった幹部たちが駆けつけた。
「こいつら…」
「こちらアルフ、艦内の戦闘員は全て排除した」
「あとはこの二人だけ」
静かに彼らの報告に耳を向けるエルデア。
「良いだろう。ではこの二人の始末はお前たちに任せることにしよう…」
それだけを命令すると割れた窓ガラスからエルデアは脱出した。同時にアルフ、デル、ゼタの三幹部たちがローランとゲルルフに向けて突撃した。すぐさま刀を振るうローラン、居合いの形に構えると姿勢を低くしてデルの銃弾を避けた。行き場を無くした銃弾はゲルルフの放った弾頭により相殺された。すると隙が出来る。この瞬間にローランはデルとの距離を縮めていた。驚くデル、「しまった!」という表情のまま心臓を刃が貫いていた。
「先ずは一人…」
緑色の血液で濡れた剣先を次はゼタに向けていた。ゼタはそれでも怯まなかった。
続いてアルフが小さなハンドガンをゲルルフに向けていた。
「そんなちっぽけな銃で俺に勝負を挑もうと言うのか?」
「貴様などこれで十分だ」
お互いに一発を譲らない。
慎重に、間合いを見て、その時を待つ。
柱に隠れながら、銃口だけを覗かせていた。
そして、割れたガラスの隙間から風が吹いたと同時に互いの銃弾が交わっていた。
二人に当たった、先に倒れたのは…。
ゲルルフだった。
「なっ…ゲルルフ!ゲルルフ!」
ゼタと対峙していたローランが呼び掛けるが、もう彼は答えなかった。
「ちくしょうっ!」
「刃が乱れているぞ」
それは一瞬の油断だった。
ローランがゲルルフに注意を向けた隙にゼタのナイフが彼の背中に突き刺さる。
「痛っ…」
怯んだのはローラン。
痛がる様子を見てさらに追撃を開始する。
声にもならない絶叫と共にゼタとアルフが返り血を浴びていた。
動かなくなってもなお攻撃は続き肉塊となったそれは機甲団とコールランドの敗北を意味していた。
こうして彼らの抵抗は、全てを賭けた戦いは幕を閉じた。
一方でグレンとグレンダ。
赤いロウと蒼いインディゴがぶつかりあっていた。どちらも強さには引けをとらないが…しかし、先に動いたのはグレンだった。
真紅色のロウは更に姿を変えて黄金腕へと変貌してゆく。インディゴにぶつけていた赤き左腕は金色のものへとなり、僅かに火力が上昇した。そのままグレンダの機体を殴り倒すと山々の隙間に落ちていった。
「やったか!?」
『イイヤ…アイツ ハ 直グニ戻ッテクルヨ…』
ロウが否定する。
そして、その直感は直ぐに現実のものとなった。渓谷からは凄まじい大爆発と共に高く狼煙が上がっていた。深い砂煙の中には人型の大きな影が一つ。
グレンダの機体、インディゴ06だった。
「type…beast!これがロウボットの暴走だ…!」
グレンダの居るコックピットが赤く光る。
それは獣の目によく似ており、かつてグレンが鉄道上でサイラスの乗る機体「セラドン」と戦った時にはロウも同じ姿を見せていた。
「この姿は…!」
ただ闘争本能に従い動くその様子はまさに獣。
「あ"あ"…ぁ"…うぐ…あが…きっきっきっ…」
声にもならなかった。
ただ唸る、ただ吠える。
彼女も今、全てを賭けて戦っていたのだ。




