第四十二話 威風堂々
「お前たちの相手はこの俺だぁ!」
シリルが叫んだ。
ノアの猛攻は未だ止まらず、その衰えを見せることはなかった。
「機甲団のエースパイロット…シリルか。お前も指名手配犯だったな、このホロウスの裏切り者め!」
「なんとでも言え!俺はお前らホロウスのやり方に賛成出来なかっただけだ!」
「ベーター!ガマ!行くぞ!」
アルフの呼び声と共にベーターとガマも躍り出る。二人は西の国の拳法の使い手だ。だがそれは長年の修行から習得したものではなく生まれながらに脳にプログラミングされたから使えるようになっている。だから彼らは戦士であって人では無い、替えはいくらでも居る。
「ハアッ!」
シリルは軽々と二人を受け流す、そして溝内に拳を入れるとベーターは怯んだ。次にはガマがシリルに飛びかかるがそこには蹴りを入れる。
「ぐっ…」
「なんだ…手応えがまるで無い…本当に拳法の使い手なのか!?」
確かに攻撃力はある。だが、すぐに倒れてしまうほどにその体は脆かった。シリルが追撃するとすぐにベーターとガマは動かなくなってしまっていた。
「…」
「死んだ…のか?」
「お見事、流石は指名手配犯。だが残念だったな、そいつらはクローン兵器。倒した所で所詮は傀儡よ」
「貴様は…!」
呆気なかった。いくらクローンと言えども耐久に特化することはホロウスの技術力、いやロゼッタの技術力では叶うことは無かった。
それでもアルフだけは特別でどうやら隊長格のポジションであることはシリルも薄々勘づいていた。
同じく拳を突きだすがアルフも受け身をとりながら倒れこんだ。すると素早く立ち上がりシリルの眼前へ銃口を突きつけてみせた。
「まずは一人…」
次の瞬間、パァン!という破裂音が響き渡りながらシリルの眉間に風穴が空いた。脳天を直撃したそれは向かい側の壁まで飛んで行く。
赤い血を見るのは実に久しぶりだった。
クローンであるアルフたちは長い間緑色の血液しか目の当たりにしてこなかったからだ。
普通、血は赤色だがクローンである彼らは人間と区別をする為に血液を緑に変える薬品を定期的に与えられてきた。
アルフは銃を懐に仕舞うと足早に次の中継点へと走り出したのだった。
一方でこちらは大空挺ノアの司令室。
そこには依然として立ち続けるロンメル・ローランの姿があった。この機甲団のリーダーにしてこの大空挺を操っている本人である。
「そろそろ姿を現したらどうだ?」
ローランがそう声をかけると一人の男が堂々と司令室へと入ってきた。
「流石だな。テロ組織のリーダーを務めていることはある」
「なんであんたみたいな王様がこの場に居るのかはわからねぇがよ。どう言った了見だ?」
威風堂々、そこに立つのはホロウス帝国皇帝であるホロウ・エルデア二世。
「ここまでの案内、ご苦労だった。貴様はもう用済みだ」
「なんのこっちゃわかんねぇな、勝手についてきたのはそっちだろう。俺は元より案内する気は無かったぜ」
「貴様も楽園を目指すのだろう?ロゼッタストーンが産まれたギョベクリ・テペに!」
ローランは聞いたことがあった。かつてこの星には神が降臨し、人類が産まれることになった遺跡があるという話を。そこは深い雲海に囲まれた大地でその絶対的な神聖さを守る守護神である白鯨が存在する伝説の地。それはまさに今、グレン達が降り立ったこの古大陸ロディニアの姿であった。
「あいつも…ロウもここで産まれたらしいな」
「ロウ?ああ、貴様らが保有する兵器のことか。奴はもう要らなくなったが戦力は少しでも少ない方がこちらにとっても都合がいいのでな」
そう言ってエルデアは司令室のモニターに一つの映像を映し出してみせた。いつの間にそんな細工が仕掛けられていたのか?と考える暇も無くローランは映し出された映像に冷や汗を流していた。
「グレン!ロウ!」
そこにはグレンダとボロボロになりながらも戦い続けるグレンとロウの姿があった。
「もうじき彼らの命も潰えるだろう。っと、そうだまだ貴様は知らなかったな。我が愛しき部下が機甲団のメンバーを一人殺したそうだ」
「なにっ!?」
「名をシリルと言うらしい」
「シリルがっ…!」
悔しそうにローランが拳を握りしめて小刻みに震え始めていた。今にもエルデアに殴りかかりそうなその様子だがここで止まっていられるのが彼の理性。静かに反撃の機会を窺っていた。それでもなおエルデアは彼に向かって挑発するかのように次の言葉を発した。
「もうすぐだ、もうすぐ我らの作戦が実行される!その為にはこの大空挺ノアが必要だ!さあ、退きたまえ!矮小なる小虫どもよ!」
エルデアはローランに向かって右腕で指を差しながらもう片方の腕で指を鳴らしてみせた。
すると彼の背後に光輝く紅紫色の物体が現れた。
「ロゼッタストーン…!」
「…の欠片だ」
小さな欠片だがこの中には地球という惑星そのものが詰まっている。
彼が腕を捻り天井へとかざすとその物体から謎の発光物体が放たれた。刺のような形をしたそれはローランの身体を貫いたかに思えた。
しかし、彼もそう簡単にはやられはしない。
懐から柄を取り出すと刀身が蒼く輝きだした。その刀身で発光物体を弾くとと残りを振り払った。
「ほう…東の国に伝わる型落ちのなまくらか…珍しいものを見せてくれる…」
「それだけじゃねぇぜ!こいつは刀と言ってな…うちの職人が造ったんだ!」
唐突に、柱の影からその職人は現れた。
「そうだ、俺の自慢の武器なんだよ」
職人の名はゲルルフ・ベックマン。コールランド最高の鍛冶職人だ。




