第四話 動き出す、情勢
「こちらグレンダ・ラヴクラフト。本部、応答を願う」
「こちら…アー…第三部隊…総員揃いました…!」
「了解した。ところで通信状況が悪いようだが何かあったか?」
「いえ、問題ありません」
「そうか、では第二補給地点で再会しよう」
「イエス、グレンダ大佐!」
「大佐で良い」
ソウドレスから50km離れた戦場跡地にホロウス軍の精鋭が近づいているのを辺境の村の人々はまだ知るよしも無かった。
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例によって例の如く、グレンとロウは職場へ向かおうとしていた。
「風が冷たい…これは嵐が来そうだな…」
『アラシ?』
「うーん、説明は難しいけど…雨と風が一緒にやってくる…みたいな?」
『ナルホド』
日頃の会話の成果か少しずつロウの知能が上がってきている気がする。
無邪気な様子はまるで幼い子供のそれだ。
いつか彼の知能が人類を超越する日も来るのだろうか?そんな思いを胸に今日の仕事が始まった。
「グレン、こっちも手伝ってくれ!」
「おう、すぐ行くよ」
「ここはもう何もなさそうだな。次、D地点に向かってくれロウ!」
『リョウカイ』
掘って掘って堀続ける。なんとも単純な作業だがこれで一発堀当てた時の達成感は計り知れないものなのだと言う。
昨日はルビーが見つかった。だから今日も見つかるはず、そんな短絡的な感情が人の深層心理を目覚めさせる。
それはロウでも例外では無かった。昨日の成果からか目を輝かせるかのようにカメラが輝いて見える。
そんな彼を横目に作業を続けていると突然、ロウの動きが止まった。
「ん?どうした、ロウ?」
「なんだ?電力が切れたのか?」
『チガウ…』
次の瞬間、僅かな揺れを感じとった。
「これは…まずい、地震か!?」
「なにっ!お前らっ、一回外に出るぞ!」
地震にしては長すぎる、そして小規模な揺れはまるで何かに攻撃されているかのようだった。親方の掛け声で炭鉱の外へと避難するとそこは火の海だった。
「なっ…これは…」
只でさえ貧相な家は既に火だるまになり、崩れかけだった廃墟には粉々に砕けた瓦礫の山で覆われている。炭鉱夫たちは言葉を失っていた。俺の家は…!俺の妻は…!子供は…!そんな嘆き声が聞こえてくるようにも感じた。
「おい…マジかよ…」
「待て…何かが近づいて来るぞ…」
絶句して今にも駆け出しそうなアレックスを親方は静止させた。
そして燃え盛る炎の奥からは藍色の煌めくロウボットがゆっくりと近づいて来た。
それはロウよりも一回りほど大きく見える。
グレンたちの目の前にまでやってくるとコックピットが開いた。
そして中から出てきたのは意外にもグレンと同じ赤髪が特徴的な女性だった。
「この村の責任者を出して貰おうか」
その女性はそう言うと親方の方へと目を向けた。
「お前か?」
「いかにも、俺がこのカニング炭鉱組合代表のダンカン・カニングだ。見たところ軍人のようだが宣戦布告も無しにいきなり襲撃だなんて良い度胸してるじゃないか?何者だ!」
怒りを抑えられないのか威圧的な言動が目立つ親方だ。
この女性が上官なのか一等兵と思しき兵士が掛けよってきた。
「大佐!これ以上の生き残りは確認出来ませんでした!」
「ご苦労、配置に戻れ」
「イエス、サー!」
耳を疑ったかのように驚く親方たち。これ以上生き残りが居ない!?それじゃあ、妻は子供は…!そんな表情をしていた。
「貴様ら!それでも軍人かっ!」
全てを察した親方はついに怒りを露にした。
「任務の為なら犠牲を厭わない、それが我が軍のしきたりだ!」
「貴様…!」
「私はホロウス軍ソウドレス支部管理官、グレンダ・ラヴクラフトだ。今日はある任務の為にこの村に来た。」
彼女がそう言うと炎の奥から無数のロウボットの部隊が現れた。
グレンは昨日の新聞の内容を覚えていた。急な本国からの異動、ロウボット開発に投資を始める政府。全てはこの作戦の為の布石だったのだと…!この日、情勢が大きく動き始めたのだった。




