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ロウ戦記 a master called me a rou.  作者: みそラーメン
THE INFINITY
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第三十七話 継承者

「皇帝陛下入室!皆、表を上げよ!」


皇室担当大臣はそう言い放つと宮殿は一気に厳かな雰囲気へと変化した。ホロウス1億9000万の民は一堂宮殿へと頭を下げていた。大臣の「表を上げよ!」という号令により民は一斉に顔を陛下へと向けた。


「我、ホロウ・ジーノンディアスは今日を節目に退位するものとする。尚、後見人は我の子ホロウ・エルデアを二世とし、政治を進めることとする。意見があるものは今、この場で直訴しなさい」


民はただ皇帝にひれ伏すばかり。とても声を上げるような度胸も無く、ただただ崇め、敬い続けている。そしてその民の姿を見渡した皇帝は懐からナイフを取り出し自らの首に当てて見せた。


「皇帝陛下退位の儀、しかと見届けよ!」


大臣がそう言うとジーノ皇帝はナイフを引いた。血が滝のように流れ出す、次第に真っ白な椅子が赤に染まっていく。皇帝はただ静かに椅子に座っていた。

やがて、数分もせずに血の流れが止まったのを確認すると宮殿の奥から一人のエルがやって来た。父の骸に一瞥して、堂々と歩きだす。

齢8歳にして既に王の貫禄、その名は「ホロウ・エルデア」。

王の継承者である。


「父の立派な死に感謝を!これは旧時代を断ち切る為の儀。男、女は自害せよ!」


ホロウ二世の号令で民は皆首を断つ。旧人類、男と女と呼ばれる者達が一斉に死に至る。都市はみるみる内に紅く染まっていった、そしてこの国は子供だけの国になった。

エルデアの側に居た屈強な兵士ですら皇帝の号令に従い自らの銃で命を断った。それほど新人類エルは彼らの理性を狂わせたのだ、やがて神として祀り上げられる新たなる信仰の為に。


「逃げた女が一人…アルフ!ベーター!追え」


エルデアは知っていた、このホロウスには裏切り者が居ると。

彼女はずっとジーノ皇帝を盲信してきた、その為にこの国に尽くしていた。ただそれだけだったのに、この仕打ち。皇帝は死んだ、国が死んだ、信じられるのは相棒(藍の機体)だけだった。


あの戦いから八年、時代は大きく動き始めていた。


─────────────────────



「はぁ…はぁ…はぁ…」


彼女はひたすらに走っていた、まず向かったのはロウボットの格納庫。そこに自慢の機体があるはずだった。アルフ、ベーター、ガマ、デル、ゼタによる無数のレーザー砲を掻い潜りながら鉄の階段を下ってゆく。ガンガンガン!とけたたましい轟音が格納庫内に響き渡る。

第四番ゲートに降りるがそこに機体の姿は無かった。


「そんな…私のインディゴが…!」


絶望の中に立ち竦む。


「居たぞ!観念しろ!」


あっという間にアルフに追いつかれてしまっていた。背中には敵、目の前には空っぽのゲート、絶体絶命とはまさにこういう状況の事をいうのだろう。それでも彼女は最後の抵抗とばかりに両腕に拳銃を構えてこう言い放った。


「お前たちの弱点は私がよく知っている!死にたくなければ攻撃を止めろ!」


「シラナイ」


アルフのレーザー砲が彼女の左頬を擦った。

この程度の傷では怯まないのが彼女が軍人である証拠だ。傷は受け慣れてきた、あまり誉められた事では無いが六年前の演習では新人の手違いで腹を弾劾が貫いたこともあったが僅か三日で歩ける状態まで回復した。これには医者も驚いていた。

そんな彼女の度胸にはアルフたちも少し気押されていた。


「さあ、観念しろ。グレンダ"元"大佐」


「くっ…ここまでなのか…」


その時、基地内に日射しが舞い込んだ。

アルフたちが天井を見上げるとそこには日射しを遮るように巨大な蒼い影が舞い降りていた。


「来てくれたか…!インディゴ06!!」


インディゴの両腕に付いた粒子砲から放たれるレーザーは一瞬にしてアルフを貫いていた。

眩いばかりの光線が降り注ぐ。それは乱暴に、しかし精密な動きで彼女には決して当てなかった。一瞬の内にアルフ部隊が全滅した。デッキからはエルデア皇帝がそれを静かに観察していた。


「興味深いな…よもやロウボットがヒトの為に自律するとは…」


皇帝の姿に気付いたインディゴは砲塔をエルデアの眉間に突きつける。


「面白い、これもロゼッタストーンの意思か」


「さあ、エルデア皇太子様。貴方の企みも終わりです」


「引くのか?引き金を」


「インディゴ、やれ!」


いとも簡単に引き金は引かれた。

爆音と共にエルデアは吹き飛んだかと思われた。デッキが火薬煙で覆われる。


「なっ!?」


晴れてゆく煙の中にはびくともせずに立ち尽くす皇帝の姿があった。

その周囲はロゼッタストーンのカケラが円を描いて飛び交っていた。

ロゼッタストーンが彼を守ったのだ。


「我はロゼッタの力を我が物とした。さあ、ロゼッタよ、やれ!」


瞬時に型が変わっていく。槍の型に変化したそれはインディゴではなくグレンダへと矛先を向けていた。まずい!そう思ったと同時に体は左へと捻らせていた。それは本能的に従った行動であり彼女自身の意思では無かったのだ。

紙一重でかわすとグレンダは咄嗟に体勢を立て直す、しかしそれでも余裕な表情を見せるのが皇帝エルデア。指揮棒を振りかざすように指を指すとロゼッタストーンは光の円を描きながらグレンダの周囲を循環していた。


「なっ!?これは…!」


「残念だったな、ここまでだ。しかし実に惜しいな…ここまで戦闘能力がある兵は我が軍でも有数…いや、無くすのは実に惜しい…」


「そうか、それなら私を解放してくれ」


「無理な相談だ、だがな…」


そう言ってエルデアは懐から一本の筒状の"何か"を取り出していた。

先端には針のようなものが付いてる。


「…?何をする気だ!?」


「これは注射器と言ってな、本来あと二世紀後に実用化されるものだ」


「注射器!?これが…」


エルデアが注射器と呼んだその物体には透き通った真紅の液体が入っていた。

それはレッドドリンクを思わせる液体だった。


「さて…貴様に残された選択は二つに一つ。このまま我に殺されるか、この注射器を受け入れるか」


「一応聞いておくけど…注射器を選んだらどうなるの?」


「それは貴様がよく知っている事だ」


なるほど、とグレンダは何かを悟ったかのように薄ら笑いを見せていた。そして静かに顔を上げると手に持っていた拳銃を投げ捨てて両腕を上に上げた。


そうして彼女は抵抗を辞めたのだった。



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