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ロウ戦記 a master called me a rou.  作者: みそラーメン
NWaNm作戦 編
34/51

第三十四話 復活、誰ガ為ノ翼

その時、グレンの頭上に一縷の閃光が飛び交った。方角は西、かつてコールランドの首都があった方向だ。バンで何かが起こっている、それもロウが何かのアクションを起こしたように、だ。気がかりだが生身ではどうすることもできない。故に今は武器を探すことが先決であった。

どこかに機体は生き残っていないか?いないだろう。もうここには戦場は無い、だから居ないと断言出来た。しかし、彼は随分歩いてきたようで防空壕からは20里ほど北に離れた場所まで来ていた。もう体はボロボロで今にも倒れてしまいそうな姿だが彼は諦めなかった。やがて大地は境界線を区切りに緑溢れる姿を現しはじめた。そう、ここから先がロウが覚醒した場所。砦の跡地が点々としているがまるで手入れされていない自然の姿を見せる。草木に覆われた砦跡地は実に神秘的なものであり、それは倒れた機体たちも同じであった。

草地を往く。

もうここがどの砦のどの防壁だったかさえも虚ろに感じはじめている様子でグレンは疲れはてていた。


「赤…」


それは当然現れた。草木の隙間から見える赤いプレート、金属質だから恐らくロウボットのパーツであろう。


「ロッソ…そうだ、もう一機あったじゃないか…」


息を切らしながら太い蔓を掻き分けていく。あった、グレンの二番目の機体(セカンド・ロウボット)。火事場の馬鹿力か、草木を乗り越えて操縦席へと飛び乗った。先ずは燃料を確認する。石炭炉のメーターは15を指していた。フルメーター100で活動時間が三時間二十分、つまり今の活動限界は二十五分ということになる。短い、非常に短い。この二十五分でやらなければならないこと、まず第一に燃料の補充だ。動かなければ始まらない。それじゃあどこに行く?あったじゃないか、彼の故郷が。そう、そこはジェムの村。もう石炭しか採れなくなった古炭鉱。ここから距離は離れて10km。対岸のリヴァー河口を渡って直ぐだ。


「動いてくれ…ロッソ」


一筋の光が機体に流れ落ちる。石炭炉が再び稼働を始めた。みるみるうちに操縦席が熱くなっていく。


「あれ…こんなに、温かかったっけ…ハハ」


温かいその椅子はまるでストーブのようだった。温もりが疲れた体を癒してくれる、グレンはもう復活していた。


「あと一歩だ…さあ、動け!ロッソ!」


頭部のライトが鋭い眼光の如く光る。左右のそれはまさしくこの戦場を照らす目であった。

起動を見届けると次にグレンは両足のブースターを点火させ、前屈みになってみせる。丁度良い足場は無いか?辺り一辺を見渡した。あった、あれは…恐らく崩れた砦の鉄板であろう。斜め45°に倒れたそれは足場になる。


「それぇ!!」


ブースターに押されて両足のコロが動く。バランスをとりながら足場に向かって突撃すると上手く飛び乗った。


「最ッ大!点火ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


もはや声にならないほど叫ぶとロウボットは空を飛んでいた。初めての浮遊感、そうかこれが空。夜明けの光を背にグレン、そしてロッソは宙から降りていた。

この間、僅か七秒。

体を捻りながら受け身をとると静かに着地する。この河を渡りきったのだ。

あとは、故郷へ帰るだけ。

旅は続く。


河の畔から走り続ける。もはや形は残っていなかったが特徴的な地形からは村の場所を推測することができた。特にあの黒焦げたクレーター。ロウと初めて出会った場所は今も変わらなかった。そこからかつての帰宅路を辿る。

断層は…まだあった。しかし、燃料メーターはもう3を切っていた。活動限界まで残り五分。もはや一刻の猶予も無い。

スピードが落ちてきたところに転がり込むと炭鉱内部へと突撃していった。幸いに装甲は硬いから傷はつかなかった。

ロッソに備え付けられているライトを手に持つと暗闇の炭鉱を照らす。するとようやくその全貌を知ることが出来た。彼にとっては懐かしい、しかしそれはとても残酷な光景だった。

壁一面に真っ黒な焦げ後。かつての襲撃の際にここにあった石炭は全て燃やされていたようだ。思わずグレンはガクンと座り込む。


「もう…手遅れなのか…」


そう、手遅れ。やっと見いだした希望が絶望へと変貌する悲しみ。彼の精神はもう、ボロボロだった。


「…これは?」


ふと壁へと目をやるとグレンは何かを見つけたように立ち上がる。そこはかつてロウと共にルビーを堀当てた鉱脈であった。暗闇にキラリと光る物。それを確認しようとライトを当てる。


「…!!ルビーだ…!」


そう、それはグレンの体が丸々収まるほど巨大な宝石だった。色は赤、恐らくルビーだろう。そう思ったときだった。彼の指輪がそれに反応するように赤く光輝きだした。いや、正しくは指輪のルビーが、だ。


「凄い…でも、何故…?」


口には出したが考える暇は与えられなかった。

グレンが宝石に触れると何者かに捕まれたように引っ張り込まれていった。


赤い、神秘的な光に包まれたその部屋は宝石の内だった。彼が困惑しているとやがてその主は現れた。


『ロゼッタが導きし者よ…我が主の子は何処へ…』


光の粒子が集い、それはヒトの形を成した。

しかし、一つだけ違う点は背に大きな白銀の翼を二対備えてることだった。


「天使…あなたは天使なんですかっ!?それに"我が主の子"ってどういう…!」


『質問は答えましょう、まず貴方が最初に発した"天使"という言葉…確かに我らは別の宇宙では天使の名で伝わっていました。ですが、本質は貴方たち"ヒト"と同一の存在。決して相容れぬもの同士ではありません…我らは彼の地より主から遣わされた"星の観測者"。この星を見守り、記録するものです』


「星の…観測…者…」


『さて、我らからの質問ですが…貴方は"我が主の子"を知っていますね?』


「主の…子…」


『貴方は主の子と接触した』


「…」


もはやグレンには何がなんだかわからなかった。


『では…こう呼べば分かるでしょう。ロウ…と』


「ロウ…!?ロウって…まさか…!」


『そうです、我らには彼の居場所がわかります。主の子です、きっとこの星を滅ぼしかねない力を持っている…今は囚われの身だとしても彼を救えるのはその子と同調した貴方しか居ない…』


「俺だって…助けたいです。でも俺には力が無い…だから、とてもじゃないけど俺には出来ないんです」


『力が有れば良いのですか?では力になりましょう。お願いです、我が主の子をどうか救ってやって下さい…それだけが我らが星の観測者の悲願なのです』


それだけを言い残すと光を失いながら天使は粒子と共に消えていた。グレンはただ呆然と立ち尽くすと指輪に力を込めていた。

輝きを失った宝石を背にグレンは立ち去っていく。その背中には大きな白銀の翼が粒子状に瞬いていた…。



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