第三十三話 水平線上ノ巨人
「システムα…メタン配合、メタルロイド反応!」
目の前には無数の発光する長方形の画面が広がった。これを我々の組織は電継盤と呼んでいる。もっとも俺はパイロットだからそんなことは知り尽くしているのだが、私の隣に座っている彼(名をヤンと呼ぶが)はまだ新米故に操作には慣れていないのだ。だから今は俺が彼に操縦方法を教えている。
「左蒸気流動!右電流動!互いに確認、エネルギーマックス…いつでも行けます!」
それにしても…この機体を出動させることになるとは…間に合わなかった。後悔もしてる。もっと早くに奴を止めていれば…!それに彼のことも気がかりだ。この基地を飛び出してから音沙汰無い。諜報員の報告ではコールランド軍として戦場に向かったらしいが…。
「シリルさん、調整終わりました!出動します」
「うむ、ではメタルロイド-タイタン…出動!」
\\\フォースゲートオープン///
\\\フォースゲートオープン///
ブリッジから見渡す巨体は壮観である。
賽は投げられた。金剛の巨神は灼熱の炎を纏いながら空高くへと舞い上がると戦場へと繰り出したのであった。
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星は高く上がっている。
この月夜に輝く空の下で作戦は始まっていた。
滅びゆくコールランドの中心に神は聳え立っている。都民は遥か南のゴルドガルドまで逃げたがそんなことは問題ではない。
「各員、接続準備。予備も用意しろ!」
「イェッサー!」
相も変わらず呑気な部下たちだ。恐らく彼らは自身が何をしようとしているのか理解してないだろう。ただの駒にしか過ぎない、傀儡の人形。私は知っている。この作戦が世界を揺るがす大きな事件に変わるのだと。私は陛下からそう聞いている。
「グレンダ…準備は整ったァ。俺の部隊も合流しよう」
明らかに表の世界の住人ではなさそうな強面のその男。だが、彼の軍服にもまた大佐を表す刻印が刻まれていた。
「これはこれはヴェルナー大佐…貴様もこの作戦に呼ばれたのか…?」
「皇帝陛下は寛大なお方だ、闇の世界で生きてきた俺たちに救いの手を差し伸べて下さったァ…!俺たちゃもう…マフィアでは無いィ…!」
そう、彼は"タブー"をホロウスに受け渡す代わりに自身を軍に招けと要求してきた。陛下はそれを承認し大佐の位を設けたのだ。
「所詮は外様だ…」
「何か…?」
「…いや」
悔しさは無い、今日まで私はこのホロウスに仕えてきた。そして、私は本部大佐まで上り詰めた。それで十分な筈だった。だが何故だろう?私は今、目の前の彼に嫉妬を覚えている。
「行くぞ…作戦開始だ!」
藍の閃光と黄金の閃光が作戦のはじまりを告げていた。
止まったままの神に二体の機体が近づく。神は未だ動かない。隊長機の合図により数十機のロウボットが巨大なケーブルを抱えながら神に近づくと接続端末へと次々と繋げていく。
背中に二本、両腕に二本ずつ、頭部に一本、胸部に一本…計八本のケーブルに大蛇の如く唸りながらエネルギーが供給されていく。
それは遥か東の国に伝わる八本の首をもつ大蛇の伝説を連想させていた。名を"八岐大蛇"と呼ぶ。
「伝説…か」
「グレンダ大佐、起動準備終わりました。作戦LEVEL-THREEに移行します」
「各員通達、第二種特殊戦闘配置!ヴェルナー部隊は旧コールランド最終防衛線にて待機、ACTフィールドの展開準備をせよ!」
「なんだァ?俺の部隊はただの盾かよ?」
「何もなければそれで良い…だが奴らはきっと来るぞ。貴様は知っているだろう?」
「ふん…まァいい」
反抗的には見えるが軍務はしっかりとこなしている。私は彼をホロウス軍に歓迎はしないが、その活躍は評価に値すると思っている。
と、そんな雑念を考えていた時だった。
奴らは姿を表した。これまたド派手な登場で光とも炎とも見分けが付かないオーラを纏いながらその巨神はやってきた。
「消えた原始のロウボット…そんなところに隠されていたか…!」
もはや200年前の原型は無かった。
何十回、何百回、何千回もの改造を続けられたであろう様子が伺える。まさにダークホース。良いぞ!胸が高鳴ってきた!私の闘争心が荒れ狂う。
「頼むわよ…私の相棒…」
藍色の機体(インディゴ06)が流星の如く飛び出した。蒼い彗星が弧を描くと金剛の巨神の周りを一巡した。なるほど…これでは対抗出来るのは神しか居ない…。
「神のエネルギー残量は?」
「28%です」
「甲粒子弾波動砲…一撃が限界か…」
決断せよ、私。今やらなければならないことは何か!?そうだ、きっとここで一撃入れられれば作戦までの時間稼ぎは出来る。しかし…もし万が一外れたら…いや、そんな考えは野暮だな。
「鉄鋼粒子配合準備、一発だ…」
「大佐…!まさかあれを使う気ですか…?」
「そうだ」
「…!!」
私にはなぜ彼らが動揺しているのか分からなかった。そう、「我々の作戦に邪魔立てする者は全て殺せ」これが命令だったはずだ。陛下は今も見ていらっしゃる、だから私は戦うのだ。
「粒子固定、融解に入ります!」
あと…もう少し。引き付けるのだ、やつを。
「巨神、ACTフィールド内に突入!神まで残り50000…45000…40000…」
「駄目です!迎撃圏内に入りました…!」
「ええい!甲粒子弾波動砲はまだかっ!」
オペレーターたちが右往左往する。
30…29…28…27…26…もう少し。
しかし、先に仕掛けたのはやつらだった。
「追尾ミサイル、来ます!!」
「ヴェルナー!ジオシールドを展開!」
「任せとけェ!"グレンダ大佐"ァ…!?」
咄嗟にヴェルナーに防御指令を下す。これはシールドというより粒子弾に近い、守るのではなく相殺する。光の霧に包まれながら追尾弾が失速する。成功だ。
「3…2……1」
「0!今だっ!」
その時、水平線上に神は吠えた。
甲粒子が巨神を貫く、だがやつも我が神に一矢報いていた。光が神の腹を貫く。剣…では無い。恐らくこれも甲粒子弾に近い存在だろう。
やられた…そう思った時にはもう遅かった。
二対の巨神は互いに立ち尽くすとACTフィールド内にて静止した。
その距離は僅か1kmだったという。




