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ロウ戦記 a master called me a rou.  作者: みそラーメン
NWaNm作戦 編
32/51

第三十二話 ゼツボウトリガー

「…きろ」


「おい…!…きろ!」


知らない声が聞こえる、何かが近づく物音が聞こえる。それと同時に先ほどまでの微睡みは遥か彼方の忘却へと消える。

すなわち、グレンは夢から目を覚ましたのである。いつか見た、夢物語から。


「ここは…?」


起床したばかりだがその眼光は鋭い。慌てるようにも周囲を見渡す。彼を見た兵士たちはまるで幽霊でも見たかのように狼狽える。なぜか?


「い、いくらなんでも回復が早すぎる…!先生の話では完治にはあと数日はかかる筈なのに…!おい、君。大丈夫なのかい?それで、ミラウス隊長は…どうなったんだ!?」


起きたばかりだというのにこの質問の数だ。流石のグレンもこれには困惑する様子だ。


「夢を…見ていたんです」


「は?」


開幕彼が発した言葉はそれだった。

隣で看病していた衛生兵も眉をしかめる。

質問とは程遠い答えだったからだ。最悪、記憶が混同しているのかもしれない。


「あ、いえ。すみません、こっちの話です…」


「…そうか」


「俺はもう、大丈夫です。ところでミラウス隊長…でしたっけ、なんの話です?」


「君は三の砦で発見された、生き残りは君だけみたいだからもしかして隊長の行方を知っているのではないかと思って…聞いてみたんだ」


「名前は知りませんが、俺の知る隊長はもう亡くなっていますよ…だって、あのロウボットに…脳を潰されたんだから…」


グレンの答えを聞いた衛生兵の顔がみるみる青ざめていくのが分かる。それは彼自身にも残酷な真実を告げる。やはり、現実の出来事で遇ったと。


「相ぼ…いや、あの巨大なロウボットは今何処に?」


「…よ」


「…?」


「終わったよ…全てが…」


答えになっていない。終わったとはどういうことか?とにかく、グレンは一刻も早くあのロウボットの行方を知りたいのだ。だが、次に発せられた言葉でその真相を知ることになった。


「コールランドは…消えたんだよ」


あのコールランドが消えた、つまりそれはこの戦いの終わりを告げていた。


「一瞬だった。大地を蹂躙していた(ロウボット)は周囲を緑に変えながら我らの国の最終防衛線を突破した。幸い、民の犠牲は最小限で住んだが…国はもう体裁を成してはいない…我が軍は負けたのだ」


「…それじゃあ、ここは?」


「防空壕だ」


ハッと気づく、周りを見渡すと岩壁に囲まれていて既にグレンの知る土地では無かった。

だが決して密室な訳でもなく、部屋の上層部には空気を循環させる為の風穴が空いていた。狭いように見えるが小隊一つが入る程のスペースはある。しかし、グレンはこの狭い空間に恐怖していた。もう思い出したくもないあの出来事、今この場を奴等に発見されれば再び躊躇なくあの風穴から火炎放射を浴びせるだろう。ホロウスとはそういう国だ。


「おい、どこに行く!?逃げ場なんて無いんだぞ!」


グレンはまだ塞がらない傷口を庇いながらもおもむろに立ち上がって天井の風穴を目指した。

梯子はある。だから、逃げるのだ。


「ここも奴等(ホロウス軍)に見つかれば全滅です。今は少しでも希望を残したい…!」


「お前…!」


「皆さんも逃げて下さい、奴等にはきっとこの風穴から火炎瓶を投げ込むはずです。そうなればもう助からない…」


それでも生き残りは立ち上がらない、兵士と思われる人間よりも市街地から逃げ出してきた平民の方が目立つ。既に畏怖の念に覆われていた。グレンはそれでも逃げて欲しかったのだ。

やがてその時が近づいてくるから…。


「逃げて下さい…!」


それが彼らの聞いた最後の言葉だった。

物音はすぐ近くに来ていた。もう、防空壕を包囲されていたのだ。七、八体ほどのロウボットが見受けられる。幸いあの藍色の機体は居なかった。が、ロウボットの胸には円を描く蛇の紋章があった。これは教会によると"ウロボロス"と呼ばれる種の紋様なのだという、蛇は力の象徴であったと。

やがてグレンに銃口を向けられた、もう一機は風穴に銃口を突きつける。この瞬間、グレンは目の前で何が行われようとしているのかをようやっと理解した。


「や、やめろ…やめてくれ…」


そしてトリガーは引かれた。泣き叫ぶヒトの声、岩壁を殴り付けて助けを乞う絶望の音。風穴からは火柱が高く上がっていく。数分もせずに声は止んだ。銃を持ったロウボットは鋼のフェイスに不気味な笑みを浮かべていた。

次は自分の番だ…そう思ったが彼に再び銃口が向けられることは無かった。炎が鎮火するのを見届けると包囲していたロウボット部隊は満足げに撤退していった。

一人、残されるその悲しみ。グレンには風穴の中を覗く勇気は無かったがその残状を想像するのは難しいものではなかった。特にこの"ニオイ"、焦げ臭さよりもそれに混ざった死臭には酷い吐き気を催していた。

覗けばきっと後悔する。そこにはさっきまで生きていた"モノ"が転がっているのだから。アレックスやダンカン親方もそうであったであろう…熱かったに違いない、苦しかったに違いない、でももう遅い。


それでもグレンは生き残ったのだ、あの時少しでも躊躇っていたのなら彼も同じく焼け死んでいた。今はこの生き延びた命を抱えて逃げるだけ。ここは戦場、どんなに汚い手を使っても生きてさえいれば勝機は見えてくるもの。


「それなら、俺は生きてやる…」


この生き地獄に一筋の光明を。

神々の奇跡を掴みとるのだ、明日を生きる為に…。


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