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ロウ戦記 a master called me a rou.  作者: みそラーメン
NWaNm作戦 編
31/51

第三十一話 魂ガ器

それは魂の器だった。

焼け焦げたロウボットは今は動かない。

何故か彼はこいつに惹かれていた、緩やかに広がる焦土の大地を走り下るとまずは(ロウボット)の中枢系システムを確認した。


「…まだ、生きてるな」


嬉しそうな笑みだった。

中枢系システムが生きていると分かると器用な腕で無数のコードを掻き分けていく。切り取る箇所を一つでも間違えればシステムは止まる。

険しい顔になりながらまずは一ヶ所、成功だ。

これでシステムは保護された。冷や汗を掻きつつも次の場所を探す。そしてひたすら頭を回転させる、確か技術書で読んだ手順は…と。そうだ、電子系システム。型はホロウス製、なら電導経路があるはずなのだ。彼はそれに気づいていた。探す、探す、無い。次は裏回路を見た、探す、やはり無い。


「ホロウス製では…無い…?いや、それにしても見たことが無い型だ…」


エネルギー源は電気では無い。そしてコールランド型の蒸気式でも無い、理由は火力炉が見当たらなかったからだ。電気でも蒸気でも動いてないともなると…。ひたすらに頭を抱える。脳に記憶された技術書を辿る、その時彼は頭の片隅に置いていた話をふと思い出す。伝説の、ロウボットの話だ。

それは200年ほど昔にコールランドの博士が発明した世界初のロボットの話。まだ初期に発明されたそれは課題が多く残されていた。先ずは歯車、初期の段階では噛み合わないことも多く幾度も作り直しが強要されたのだ。それに嫌気がさした町職人たちはどんどん離れていった。残念なことにその技術が世間に認められたのは彼がこの世から去ってからの話である。

しかし、この話がどう関係するのだろうか?


「消えた…ロウボット…原始(プリミティブ)…」


また、彼の一人言。例の博士が亡くなる寸前、博士(かれ)が作った最初のロウボットが消えた話を思い出していた。それはもはや噂話だった、なぜならロウボットの設計図は死期を悟った博士がコールランド政府に託したからだ。政府はもう、型落ちのロウボットには興味は無かった。


「まさか、こいつが…いや、そんなはずは…」


そんなはずは無い、さっきは気づかなかったが炭で焼き爛れた胸の鉄プレートには円を描く蛇の印が描いてあった。間違いなくホロウスの国章だ。たとえそれが例のロウボットだったとしても敵国では無くコールランドに回収されているはずなのだ。だから、ありえない。もっとも消えたという噂話なので真偽は不明だが…。


「それに…博士も消えているんだから…」


畏怖の念であった。恐い、恐ろしいのだ、力が。こいつが持つ強大な力が。

それでも魅いられたようにロウボットに近づいていく。さて、どうやって持ち帰ろうか?

とりあえず、トラックにロープをくくりつけて…反対側をロウボットにくくりつける。そしてトラックで引っ張る。引きずる為プレートは破損するだろうが、まあこれはいくらでも代えがきく。型さえ守れれば良いのだ。

慎重にというよりかは大胆に、引きずり出す。

ザッ…ザッ…と鈍い音を立てながらどんどん引き上げていく。数分もしなかった。


「さて、問題はここからだな…。どうやって荷台に乗せたものか…」


暫し彼は頭を抱える。このまま引きずっていくか…それとも…?

答えは簡単だった。まずはロープをほどく、そして前輪に結び直す、そしてエンジンをかける。まるで漁船が網を巻き上げるようにロウボットが荷台へと引き上げられていく、ちょうど荷台に乗ったところでエンジンストップ。あとは手動で調整する。これの唯一の欠点はエンジンにすぐガタが来てしまう事だ。

ロープをほどくと助手席に放り込む。車は村を目指して走りだした。


辺りが影に覆われ始めた頃にはもう村に着いていた。同僚たちが物珍しそうに彼の荷台のロウボットを見つめると彼は「仕事だ!仕事だ!」と言わんばかりの剣幕で圧倒していった。

彼は本気だった。

だからそれから一週間、いや?もっと早かったかもしれない。とにかくそれだけの日数でロウボットを完成させてみせた。素体があったのも幸いし損失部分はプレートの張り替えでなんとかはなった。ガレージに貯まっていた大量の粗大ゴミ…もとい大量のロウボットパーツが彼の作業を救ったと言っても良い。


「やっぱりストックしていて正解だったぜ!」


その日、ついに完成した。彼はそっと静かに電源を入れる。するとロウボットは起動した。

成功だ。

彼はとっくにこいつの名前を決めていた。

ロウ、ロウボットだからロウ、と。


『イエス、マイ マスター "グレン"』


男の名はグレン。

そしてロウボットの名前は「ロウ」。

彼は今でもマスターの帰りを待っている、この混沌とした夢の中で…。



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