第三話 機械仕掛けの同居人
カニング炭鉱組合…このジェム村の8割の稼ぎはここから発生している。村と言っても組合の家族がひっそりと住んでいるだけの小さな集まりで貧しい生活を続けている。そんなこの村に明るいニュースが飛び交ったのだった。
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噂が広がるのは驚くほど早い、昨日のロウの活躍は村中に知れ渡っていた。少し早く目が覚めたグレンは新聞を片手に水で薄めたコーヒーを飲んでいた。
「ふむ、今日のニュース…『ホロウス本国からソウドレス支部への異動、新たに支部管理官に任命されたのは26歳の超若手女性大佐!?』」
この時期に異動?変だな…第一期軍人査定会議は先月だったはず。とは言えコールランドとの休戦状態はもうじき4年目に突入する、そろそろ休戦命令が解除されてもおかしくは無い。
『エッグサンド 焼ケタ』
「おう、ありがとな。しかし、これは…忙しくなりそうだな…」
ロウからエッグサンドを受けとるとグレンは再び新聞に目を通した。それと同時にロウが空っぽになったコーヒーカップを受けとり不器用に洗浄機の中に入れるとカランとした音が鳴り響く。
「『政府、ロウボット開発に100億cs投資か!?』…か、これはまだ噂の段階かねぇ?なあロウ?」
『シンブン?オモシロイノカ?』
「ああ、もっとも都市部ではもう見かけなくなったけどな」
ロウと出会ってからは少し生活に余裕が出始めた気がする。何より家での話し相手が出来たことはかなり大きな変化だ。
「っと、もう仕事の時間か…」
『マスター、ワタシハ?』
「そうだな、お前も来た方が良い。なにより親方が喜ぶだろうしな」
『ヤッタア』
少しばかり可愛げも出てきたように見える。しかし、喋るロウボットとはいつ見ても不思議なものだ。嬉々とするロウを横目にグレンは昼食のバターサンドを袋に詰めるとドアが外れかけた玄関から家を出た。ガレージを開けてやると勢いよくロウが飛び出してきた。炭鉱へと走って行く彼に飛び乗ると物珍しそうな目で村人達が視線を向けてきた。
「今日も来てくれたな」
「スリープモードを追加したので昨日の消費電力を1/5にまで抑えることが出来ますよ」
「それは助かるな。採掘作業はロウに任せるからお前は掘削機の整備にあたってくれ」
「わかりました!」
『ワカリマシタ!』
良いコンビネーションだ。
作業はあっという間に進んでいく。午後の作業に差し掛かった頃なにやらロウが首を傾げながら戻ってきた。
『ヘンナ石、拾ッタ!コレナニ?』
そう言って見せてきた手のひらの上には赤く輝く宝石が乗っかっていた。
「ん?それもしかしてルビーじゃないか!?」
「え!?おいマジかよ!」
「親方ー!親方ー!ルビーが見つかったそうですよー!」
炭鉱夫たちがそう叫ぶと外の事務所から飛ぶようにダンカン親方がやってきた。
「これは…間違いない。ルビーだな」
「やっぱりそうですよね!」
「おいっ!お前ら、これを採掘した周辺を掘ってみろ。もしかしたら鉱脈があるかもしれんぞ!」
「「「オォォォー!!!」」」
それから黄昏時になるまで掘り進めたのだがとうとう見つからずに終わってしまった。
「まあ…あれだ。気を落とすんじゃない。また見つかるさ…」
落胆する炭鉱夫たちを励ますように親方はルビーを掲げていた。
しかしそれは何かを予感させるかのように妖しく輝いていた。




