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ロウ戦記 a master called me a rou.  作者: みそラーメン
河口大戦 編
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第二十八話 世界が始まる日

男の瞳にはかつての村の記憶がしっかりと刻まれていた。それは燃え上がる炎の中に消えてゆく仲間の姿、そして僅かな希望さえも潰し、男を絶望の淵へ誘う藍色の機体の姿。

真夜中に星々に誓ったのは復讐の決意。

それが今、叶おうとしていた。


「やっと見つけたぞ、グレン・ルークラフト。我が愛しの部下を殺したのは貴様だな?」


瞬間、ロウボット部隊の進攻が止まる。始めから狙いはグレンを探すことだったように堂々と立ち尽くす。弧を描くように立ち並ぶ様はまるで巨神の軍隊だ。よく見ると量産型のロウボットはグレンが壊したセラドンと同じ型だった。

もっとも今居るこの機体は試作品では無く実戦投入されたタイプのようなのだが、それはつまりより良く改装されたもので以前グレンが戦ったものとは数段上の性能のであることを意味している。

それから藍色の機体インディゴ06は折れた左腕をものともせず立ち上がった。


「……」


グレンは言葉に成らない怒りに震えている。

しかし、一方でグレンダは冷静にこう語りかけたのだ。


「怒りを鎮めろ、貴様の顔は醜いぞ」


「…っ!!」


「私は取引をしに来た。貴様、ロウと再会したいのだろう?」


「用件はなんだっ!」


「もうじきこの地に神が降臨する、だが最後の抵抗なのか彼のプログラムには鍵がかかっていてな。貴様に解いてもらいたい」


グレンには彼女の言っている事がよく分からなかった。神?プログラム?鍵?なんのことやら。


「俺はロウのプログラムなど弄ってはいない!」


「ほう…ならば奴が、タブーが自ら意思を持ったとでも言うのか?馬鹿馬鹿しい、機械に心など芽生えるはずが無かろう」


確かに、今実用化されているロウボットのAIでは人の心は理解しえなかった。スピーカーも付いてはいるものの感情の無いテンプレートな台詞を繰り返すだけの知能に過ぎない。…ただ一つの機体を除いては。


「ロウには感情があった…!だから、また逢わせてくれるだけで良い…きっと俺を覚えているはずだから…」


「"もし"既にデータベースを消去しているとしたら?」


「なっ…!」


この言葉の瞬間、グレンの頭の中を真っ白な追憶の走馬灯が駆け巡った。初めてロウを起動した日、初めて共に生活が始まった日、初めて仲間と喜びを分かち合った日、初めて…復讐を誓った日…初めて…。

そう、彼の頭は真っ白になった。

そしてもう、彼は頷きもしなかった。


「おっと、忘れていた。君の上官はどこに行ったかなぁ?」


(えっ…隊長…?)


「ふむ、この下かな?」


そう言って彼女(グレンダ)はインディゴ06の左足を上げた。そこに横たわっていたのは下敷きになった隊長、背骨がちょうど半分に折れていた。まだ息はありそうだが声は出ていないし悲鳴も上げない。


「これは失敬、どうやら"誤って"踏み潰してしまっていたようだ」


「あっ…あっ…!隊長…!」


「でもここは戦場、死は厭わない、そうだろう?」


次の瞬間、インディゴ06は左足の爪先を隊長の頭蓋へと持っていった。


「やめろ…やめろ…!まだ生きているかもしれないんだぞ!」


「それがどうした?我々は"お前たち"の敵なのだぞ?なあ?」


そう言って彼女は隊長の頭を潰した。そういえばグレンは彼の名を聞いていなかった。一体彼は何者だったのだろう?


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「さあ、泣けよ、叫べよ。それが神の器となるのだ!」


今、そこに"人だったもの"が横たわっている。

確か、グレンはまだ人の死体は見ていない。泣き叫ぶその顔は涙と汗と嘔吐物でまみれていた。心拍数が最高点に達する、心臓が張り裂けるようにこの世界に叫んでいた。


怒り狂ったグレンはロッソを力の限り繰る。叶うはずも無い巨神に勝負を挑んでゆく。殴る蹴る、そして殴る。機体を通してその痛みはグレンにも伝わってくる。痛いのだ、体も心も。

巨神は抵抗をしない、ただひたすらに叫ぶグレンを見つめているばかり。

幾ばくか過ぎるとついに神は降臨した。

眩い光とは対称的な漆黒の装甲に包まれた機体はゆっくりと降りたってゆく。


「ついに起動したか…(ロゼデウス・ネメシス)が!」


余裕の表情だが神は恐ろしいばかりの熱と磁場に溢れている。だが、神の模造品(セラドン)には磁場の抵抗が無いのか激しい電流を走らせながらビリビリと痙攣している。

グレンの魂の叫び、生体残響が鍵となり神の深層心理(ディープポイント)に反応、イドの人格が覚醒し、起動に至った。

グレンダはこれを知っていてわざと、隊長を殺した。それも残忍な行為で。先ずは作戦の第一段階と言った所だろう、ホロウスの進軍はここからが本番だった。


「ロ…ウ…?」


神の姿を見たグレンはその正体を察していた。

ロウだ。

姿形こそは別物だがこの雰囲気は彼がよく知るものだった。


「ロウだろう!そんなんだろう?相棒…」


『マスター 認証。ワタシ ノ マスター ハ グレンダ デス』


グレンの頭の中の靄が完全に消え去った。そして同時に文字通りその場から崩れ去った。

データベースの消去、この場に居る相棒はもはやロウでは無かった、グレンの憶測が現実となりもはや希望は残されていなかった。


「さあ、神よ!進撃せよ!」


『イエス、マスター。GO TO NewWorld and Newmans』


"イエス、マスター"その口癖は間違いなくロウのもの。だが、後半の言語はなんだろう?グレンには、この世界には無い言葉だった。


グレンダの指示により、神は進撃を開始した。

機体から溢れでる熱波動は大地の草々や木々を燃やし尽くす。一瞬で一の砦の大地が砂漠に変わる。かと思えば次の瞬間には木々が生え森が出来た。更には嵐が襲い湖と化した。

これが神の力。だが、これは暴走に近いように感じる。本来の神の力はこんなものでは無い。

かつての宗教画には天使を僕として行使し人に試練を課した姿が確認されている。

人を高次元に進化させたものが古代神であるならこの(ロゼデウス・ネメシス)も同じであろう。


気絶する男を他所に、世界は大きく動き出していた。


河口大戦編終了です。次回からは新章NWaNm作戦編に入ります。

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