第二十七話 炎羅行く仇敵
「ローランさんよ、大戦が始まったみたいだぜ?応戦に行かなくて良いのかよ?」
「うむ…そろそろかな」
いつもより緊迫感のある機甲団アジト。ローランも意を決していた。
「ジャック、整備の方はどうだい?」
「ああ、こっちは万全だ。武器もベックマンさんに注文してある」
「あとはパイロットのみ…か。シリルとヤンを呼べ!ロウ救出作戦の開始だ!」
この大戦が始まると同時に世界各地で様々な組織が動き出す。この反逆の機甲団もグレンに応戦するための作戦が開始された。
戦局がだんだん入り乱れていく…。
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鳥翼のロウボットの襲撃から半刻、四の砦内部にて怒声が響き渡る。隊長が何か叫んでいるらしい。落ち着いて下さいと言わんばかりに周囲の隊員が止めに入る。
「一の砦が陥落しただとっ!それで、二の砦はどうなったんだっ!!」
どうやら本部との通信中らしい、これにはグレンも心配そうな様子だ。それに「一の砦が陥落した」という話題が上がった瞬間、隊員たちがざわざわと騒ぎ始めた。「あの一の砦が!?」と驚く隊員も居れば「やっぱりな」と察する隊員も居る。
「第一防壁が破壊されたか…こりゃ隊が分散してこっちにも来るな…」
そう、一の砦は前線基地と言われるだけあり巨大な防壁が広がっている。コールランドは4つの防壁で守られている。一つは一の砦の防壁、二つ目は五の砦の防壁、三つ目がエンデュラン砦の防壁、そして最終防衛線、首都防壁。
各砦ごとに防壁を造る案もあったが現状完成している防壁はこの4つ。
ついにグレンたちも本格的な戦乱に突入していく。
「各員、通達!この四の砦には囮としてこの私が残ることとする。生き残った者は後退せよ!」
「でも隊長!」
「でも、じゃあ無い!どのみちこのままじゃあ俺らはいつか死ぬ。なら、俺は…少しでもお前らに生きて欲しいんだっ!」
「…っ!!」
無念、だが隊長の気持ちは隊員にも伝わった。一人が引き上げると同時にぞろぞろと後に続く。もう、戦場には隊長しか居ない。いや、まだ彼が居た。
「お前…なぜ…!」
「俺の目的はロウを取り戻すことです。もとよりこの戦いに興味はありません」
「ロウ…か。領主殿から話は聞いているが…そんなに大切なのか?やつは世界を滅ぼす力を持っているんだぞ!危険だとは思わないのか?」
「力は扱い方次第です。俺はロウをこれ以上戦いに巻き込みたくない…もし、再び彼と出逢えたなら、俺はもう…」
「そうか、なら見つかると良いな」
グレンは砦に戻るとロウボットの残骸を漁っていた。鳥人の型をしたそいつを興味深く観察している。鳥…いや、腕は翼のようなのだが顔は普通の人面、さらには脚には鉤爪のような武装。鳥がモチーフにしてはいささか奇妙なフォーメーション。
「天使…みたいだな」
改めてその姿を確認した隊長は訝しげな表情を見せながらもそう呟いた。
「天使…」
グレンも話には聞いている。大昔に信仰されたという宗教、その宗教画には背に翼を持つヒトが描かれていたと。
現在、それはコールランドの古宗教保護施設「大教会」にて観ることが出来る。
「さて、頃合いだな」
もう無線は壊れて使えない、頼りになるのは己の目と耳。二人は静かに耳を澄ませる。爆発音…遠い…だけどそれは徐々に近づいてくる。五時の方向か!?いや、六時…?とにかく聞こえてくる。そしてそれは遂に片鱗を見せた。
この砦のすぐ近く、それは爆発した。
威嚇射撃か?グレンは身構える。
砦の隙間から外を覗く、するとほんの1kmほど先に無数のロウボットの軍隊を確認した。
直ぐ様ロッソに搭乗し、周囲を見渡す。
隊長もロウボットに乗り込んだ。
二人だけの戦場、敵は数千。
この戦い、無意味に思えた。
数千の兵隊、引き連れるのは…彼女だ。
藍色のロウボット、搭乗しているのは勿論"グレンダ・ラヴクラフト"。グレンが討たねばならない相手。
怒りに震えるグレンを隊長がそっと宥める。飽くまで、冷静に。怒りに任せた行動は命取りになる。
「今だっ!」
グレンは行動に移した。一体のロウボットのメインカメラを狙う。だが、装甲に防がれた。音一つしない、傷もつかない。ロウボットの性能差が大きすぎたのだ。
「このっ!馬鹿者!」
慌てて隊長はグレンに加勢する。
火力で攻められるというより、ただ物量に圧倒されるような、そんな感じだ。
相手は武器が無くとも我々に勝てる。
余裕の表現がコックピット越しにも伝わってくる。さらには終始無言。
「クソッ!止まれ、止まれぇっ!」
当然、止まらない。
「不味いな…せめて藍色の機体だけでも…」
策は無いか?と、隊長が試行錯誤を繰り返す。一方でグレンは何をとち狂ったのか機体から身を投げ出した。一瞬の時を空に任せた後、腰にぶら下がっていた銃剣を構える。狙いは関節部。ここだけは可動領域となっている為に装甲による補強が出来ない。そして、肩と本体の繋ぎ目にその細長い鉄の塊を食い込ませた。
次の瞬間、藍きロウボットの左腕が折れた。
やったのだ。彼がグレンが。
「中々良い太刀筋だった」
「グレンダ!俺はお前を待っていた!」
遂にコックピットから姿を表す。
ホロウス軍、本部大佐グレンダ・ラヴクラフト。
忘れたくても忘れられない、グレンが追いかける仇敵の姿だった。




