第二十六話 翼を持つもの
炭鉱都市バンには二つの駅がある。一つはグレンも乗ってきたセントラルステーション、ここはコールランド内各地の駅へと繋がる万能路線。そしてもう一つがロウボット生産工場バン本部に繋がるアーミーズステーション。
今は後者の駅へと向かっている。場所は以外と近くセントラルステーションから西にロウボットバスを使って10分の位置にある。工場近くにはコールランド軍本部施設もあり両施設共にこの国の核とも言える。
ゲルルフ鍛冶店を後にしたグレンはアーミーズステーションに向かっていた。すっかりと話し込んでしまったが彼は第二ゲリラ部隊の集合場所を忘れてはいなかった。まだ時間に余裕があるのか彼の手にはセイヨウイモのフライドポテトを持っていた。グレンは芋が好物だ。育ちのジェムの村で採れる食物は芋が多い、故に芋を使った料理が発案されていた。蒸かしたり、茹でたり、揚げたり…とにかくその調理法は多岐に渡る。調味料も色々試した、塩にクローントマトのケチャップ、ホロウス牛のバター…あとは胡椒も試していた。もっともグレンはあまりその味を好まなかったようなのだが…。クローントマトはやはり不味い、遺伝子組換えした結果、この渇いた土地ホロウスでも育つようにはなった。が、いかんせん味が落ちている。それも酸っぱい。純製のトマトケチャップもあるのだが値段は張る、故にホロウスの都市でしか流行しない。
もう一つ、バターだ。これは単純に彼が毛嫌いしているだけだ、グレンはどうもあの乳製品特有の匂いが苦手らしい。だからあの時、ミルクでは無くレッドドリンクを頼んでいたのだ。
ロウボットバスが走ること10分。軍事区画までやってきた。グレンが降りる頃にはもうぞろぞろと兵が集まり始めていた。彼らは手に銃を持っている。
「やあ、来てくれたみたいだね」
隊長だ。もっともグレンが会うのは初めてなのだが。
「君の機体の調整も終わっている。あとは我々が現場に向かうのみだ」
「はい」
とっさに敬礼のポーズをとる。まだ不慣れでぎこちない。他の機体の調整が終わる頃にはもう部隊が集まり始めていた。
続けてミーティングが始まる。
「…時間だな、点呼をとるぞ。一般兵から順に!」
「1!」
「2!」
「1」
「おいっ!声が小さいぞぉー!」
「1!」
「2!」
「1!」
……
数えること数分、総員153名による第二ゲリラ部隊の点呼が終わった。幸い今回は欠員は出なかった、だがこれも作戦から帰還する頃には半分生き残っているかどうかだ。もしかしたら自分がそうなるのかもしれない、グレンは心の中でそう考えていた。
点呼が終わると行動が始まる。
「ロウ…待ってろよ…!」
軍事列車に乗り、辿り着いたのはコールランド最北端のエンデュラン砦駅。ある意味でこの国の最終防衛線となる砦だ。景色は無、ただ葵い草原が広がるのみ、静かだ。戦いが始まる。
荷台からロッソを下ろす、ここからは徒歩での移動となる。移動用の燃料が積まれた馬型ロウボットが横を歩くのが新鮮なようでグレンがまじまじと見ている。
「どうした?そんなにこいつが気になるか?」
「ええ、今まで人型のロウボットしか見たことが無かったので新鮮で」
「だろうな、四足歩行のロウボットは最近実用化されたばかりだからな。先の大戦ではこいつも使われて無かったんだぞ」
隊長との会話が弾む。
「二年前の砂上戦ですか」
「ああ、あれでは戦艦型が活躍したな。船とロウボットを合体させるなんて開発部も考えたものだよ」
「確か砂乖スクリューで砂の上を走ることを実現させたんですよね」
「お!若い癖によく知ってるじゃないか!」
「ええ、独学で少し勉強してまして」
砂乖スクリューは戦後、客船の水中スクリューエンジンに応用された。戦争は文明を進化させる、今は便利な物も元を辿れば戦争から生まれたものだということは良くある話だ。
そうこう話しているうちに四の砦に到着していた。
「よし、各員積み荷を整理しろ!10分後に配置に付く、良いな?」
「イエス、ボス!」
「隊長!二の砦からの連絡です!一の砦にてホロウスと交戦中!戦局はかなり厳しいようで…」
「やはり…な。二の砦を落とされるのも時間の問題か」
前線基地の一の砦が制圧寸前…やはりホロウスとの戦力差は大きいようで厳しい状態だ。
「隊長!」
「落ち着けっ!幸いまだ砦は一つも落とされてはいない…エンデュラン直前の八の砦までに奴等の進行が食い止められれば我が軍の勝ちだ」
「隊長!飛行式偵察部隊です!数は…1、2、3…全部で13機居ます!」
「なにっ!?鳥翼のロウボットが、もう…!総員配置に付け!」
隊長の掛け声と共に隊員たちが散々になる。
岩影に隠れて機体専用機関銃を構えると空飛ぶロウボットに狙いをつけた。
「良いか!一機たりとも逃すんじゃねぇ!合図と共に撃て!」
「っつうぐぁぁっ!!!」
「大丈夫か!おいっ!返事をしろっ!」
ピー、ピー、ピー、ピ…
「クソッ!グレン、一機そっちに向かった!気を付けろ!」
偵察部隊と思わせた奇襲隊だった、既に犠牲者も出ている。一の砦、二の砦よりも戦いの展開が早い、これでは潰されるのも時間の問題だ。
グレンは考えていた。
だが、考えるよりも先にロッソを動かした。岩壁の影から鳥翼のロウボットに狙いを定める。
「ここだ!」
弾が、当たった。装甲と装甲の繋ぎ目に命中させたのだ。これはでかい。エンジン系に異常をきたしたのか一機のロウボットが墜落していく。まずは一体だ。
「隊長!一機殲滅!応援に向かいます!」
「…た、助かる。あー…あ、どうやら通信機が故障してきてるみたいだ、なるべく早く頼む。場所はX地点だ」
「了解」
ロッソが走る、周りには複数のロウボットが転がっている。多くはグレンの仲間の機体だったが先ほどの空飛ぶロウボットの数台転がっていた。恐らくここに倒れている仲間が撃退してくれたのだろう。
「隊長!」
「ここだ」
「隊長!無事なんですね、良かった」
「ああ、丁度こいつで最後だったようだ」
隊長の目の前には一機のロウボットが倒れている。さっきのと同じ機体だ。
犠牲者は出たものの一時の休息が訪れた。
態勢を整えるため砦に逃げ帰る。
しかし、グレンはまだ気付いていなかった。
直ぐ側に相棒が居ることに…。
 




