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ロウ戦記 a master called me a rou.  作者: みそラーメン
金色王 編
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第十八話 食と渇

二人はまだ軍で生計を立てていくのがどういうことなのかを知らない。

確かに炭鉱夫の仕事も重労働で厳しいものだ、一部のブラックな炭鉱では奴隷のように扱われることも少なくない。

だがそれが軍となるとどうだろうか?日々の訓練には根性が必要だ、それはグレンにもある。しかし、平気で人を殺せるほど強い人間は居ない。殺せるのは箍が外れた狂人だけだ、大抵の人間はそうなる前に辞めてしまう。

つまり、実戦には狂人のみが採用される。

既にグレンはサイラスとの戦いで人を殺めている、箍が外れかけているのだ。

国は平和を求めて戦争を始める、本末転倒だがそれが人。

平和の前には渇いた戦いがある。


《食べる為には渇きが必要なのだ》


グレンの頭の片隅には意味も無くそんな言葉が刻まれていた。

今、彼らが向かっている先はコールランド軍ゴルドガルド支部の建物だ。

先ほどの整備場で支部窓口の場所を聞いていたらしい。昨日グレンが見た大きな屋敷、それが駐屯所だったらしい。渓谷に架かる黄金橋からはゴルドガルドの下層部が見える。


「これは…スラムか」


『スラム?』


グレンが宿泊していた第二層よりも遥かに下にあるそれはこの華々しいゴルドガルドのもうひとつの姿を描いていた。


「まーあれだ、ならず者達が集まる場所だ」


『ナラズ者』


「危険だから近づくなよ」


やはりどんな場所にも裏の姿はある。せいぜいこのゴールドラッシュに絶望した人々が集まっているのだろう。なにしろ金は採れるが売ることが出来ない。このスラムの人口の八割が他国から出稼ぎに来た人間だと言われているのにも頷ける。


段々畑の駐屯所を登る。山脈の頂上、限りなくそれに近しい場所にコールランド軍支部がある。このゴルドガルド自体標高の高い場所に位置している為、敵国から攻めこまれにくい。

そんなこのコールランドにはこんな逸話がある。かつてまだ剣と盾が争いをしていた時代、コールランドの前身となったルドウィンという国では一度戦争で窮地に追いやられたことがあった。もはやこれまで…と覚悟を決めて挑んだ山中戦、最後の砦となったこの場所で勝利した。勝利の決め手はこの地形だった。当時は騎馬での戦いが主流であったため、この場所を登るには狭い山道を人間が登るしか無かった。

不安定な足場では食糧を補給するのも厳しい。結果、自然と兵糧攻めの形となり撤退していったのだ。

この逸話は南下物語の山中合戦の章に描かれる話でグレンでも知っているほど有名な書籍だ。


そんな物語の舞台となったこの地で再び砦が築かれている。

橋を渡っていると、ドンッ!という鈍い音がした。銃声に近いような…しかし違う音にも聞こえる。

あわてて後ろを振り向くがそこにはロウの姿は無い。あるのは行き交う人々だけ。橋の真ん中で立ち尽くすグレンだがとうとう自分の置かれた状況を理解した。

谷の底から悲鳴が聞こえてくる。グレンが橋の下を覗くと下層のスラム街にうっすらと赤い機体が倒れているのが見えた、ロウだ。

大変だ!落ちたのか?だがなぜ…と考えるが今はそんな場合では無い。考えるよりも行動だ。

スラム街がある四、五層目までは階段で降りるほか無い。ロープウェーが使えるのは市民街がある三層目までだ。人混みを掻き分けるように街中を駆け回る。


「すみません、通してください!」


その必死さは人混みには伝わらない。

せいぜいおかしな人が居る、と捉えられるぐらいだ。


「お兄さん、そっちはスラム街だぜ。あまり近づくなよ?」


「忠告ありがとう、でも…」


でも…から言い終える前に階段を下って行った。


「おかしな奴だなぁ、まあ良いか。一応忠告はしたし…」


若者の忠告を無視して下る。

生ゴミが腐ったようなそんな腐臭に咳き込むがそれでも進む。四層目まで降りる頃には市街プレートが黒い木材になっていることに気づいた。

恐らくこれは当時の名残だ。上層部に新町が出来る前はここが町であった筈だ。

もっとも、今では寂れたスラム街と化しているのだが…。と雑念を抱きながらひたすら走る。ロウが落ちた形跡なのか一部の床が崩れている。下を覗きこむがそこには先ほどのロウの姿は無い、あるのはやはり落ちたという形跡のみであった。


「これは…ロウ!どこだっ!」


叫ぶが返事は無い。だが気配は感じる…。ロウ…いや、これは…人?次の瞬間、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。

グレンは何かを察していた。


「隠れてないで出てきたらどうだ?」


すると呆気にとられたように物陰から賊共が現れグレンを取り囲む。手にはピストルを持っているが見た目はどう見ても下っ端だ。


「よく分かったな、流石は指名手配犯だ」


盗賊たちの中でも一際目立つ厳つい男、恐らく彼らのリーダーだ。


「指名手配犯…?」


「哀れなもんだな。お前、今自分が置かれた状況を分かっているのか?あ?」


グレンの胸ぐらを掴むと首を絞めてきた。

苦しい…息が出来ない…だんだん意識が遠のいていく…。


「ゲホッ!ゲホッ!ヴゥ…ハー!ハー!」


「おっと!つい殺しちまうところだったぜ…」


間一髪のところで離された。咳き込みながら息を吐く、空気を吸う、そして濁った空気でまた咳き込む。

どうやら殺すつもりは無いらしい

次の瞬間、ドンッ!という音とともにグレンは倒れこんだ。意識を失い、目が覚めた時にはなにやら薄暗い牢の中に居た。背中が痛い、どうやらさっきのは麻酔銃だったらしい。しかし、痛みの次には眠気が来た。だんだんと意識を失っていく中、渇いた石畳の上に倒れこんでいったのだった…。

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