第十一話 大金に敬意を込めて
コールランドにはこんな童話があります。
むかし、むかし一人のたんこうふがいました。たんこうふは山をほるのがおしごとです。せっせとほりすすめて行きますがほってもほっても石炭しか取れませんでした。ふしぎに思ったたんこうふは他の場所でもほってみました。しかしそこでも取れたのは石炭ばかり。また、別の場所をほってみました。でもやっぱり出てきたのは石炭でした。そしてそのたんこうふは山を一周するころにようやく気がついたのです。その山は大きな石炭のかたまりであったことに…。
不思議な話ですねぇ。もちろんそんな山はコールランドにはありません。しかし第二炭鉱から取れる鉱石の八割が石炭であることからこの童話のモデルになった場所だと言われています。
著 ブリーザ鉄道観光協会
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グレンはブリーザ鉄道の観光パンフレットを読み終えると元の机に戻した。もちろん今は観光に来ている訳では無いが少しでも旅行気分を味わいたいと思い読んでいた。
「そう言えばゲイラーさんが渡してくれたこの小包…列車の中でゆっくり開けてみろって言ってたなぁ」
『開ケナイノデスカ?』
「そう言われると開けたくなるだろ?」
と口ではそう言いつつグレンはとっくにその小包を開けていた。
中には手のひら二つ分ほどの木箱が。
『更ニ開ケテミマショウ』
ロウに言われるがままその木箱を開けてみた。そこには一枚のメモと大陸周辺の地図、そして現金10,000cが入っていた。
「こっ、こんな大金っ!?」
10,000c…その巨額さはホロウス帝国エリートの平均月給、と言えば分かりやすいだろうか?
ホロウスとコールランドの通貨の違いはクレジットカードか紙幣かの違いしかない。が、まだ紙幣が流通しているコールランドでの10,000cという金額はそれはそれは大金なのだと言う。
グレンは一枚一枚紙幣を数えている。
「100cが一枚…100cが二枚…100cが三枚…」
『ヒャク シー ガ ヒャク枚』
そう、100c紙幣が百枚。紛れもなく10,000c。
心踊るグレンは少し申し訳なさを感じるも腹ごしらえをと車内販売のボーイを呼んだ。
「サンドイッチにバーガーか…」
グレンがランチメニューをにらめっこをしているとボーイが到着した。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「うーん、それじゃあチキン&チップス一つにレーズンブレッド一つ、あとは…そう!レッドドリンク!」
「チキン&チップス一つ、レーズンブレッド一つ、レッドドリンク一つ。以上でお間違えはないですね?」
『ハイ!』
グレンではなくロウが陽気に答えた。
「へえー!喋るロウボットですか!珍しいですね!」
喋るロウの姿を見てやたらとテンションの高くなるボーイ。
しかし、この男…どこかで会ったような…?と少し不思議がるグレン。
だがグレンはこの国に来るのは初めてだし、知り合いにボーイなど居ない。
「失礼、私としたことがついつい喋りすぎてしまった…。ではお待ち下さい」
ついテンションが高くなってしまったことにハッとするボーイ。料理をお待ち下さい、そう言うとささっと去っていった。
「変なやつだなー」
『デスネ』
変なやつ、それが彼にたいするグレンの正直な感想だった。しかし、それにしてもさっきの違和感は何だったのかと思うグレンだった。
『マスター ドコヘ行クノデスカ?』
「ちょっと風に当たってくる」
そう言うとデッキへと向かって行った。
その手には10,000c、地図と一緒に入っていた一枚のメモを持っていた。
「10,000cか、そんなにあるなら鉄鋼飴買っておけばよかったな」
風に当たりながらそんなことを呟くとメモを見た。
〔味方を疑え、そして信じた道を進め〕
謎のメモにはそう書かれていた。




