第一話 出逢いは突然に
静かに列車は走り続けている。
血生臭い匂いが強烈で今にも吐きそうな様子の彼は山並みに勝利の笑みを浮かべていた。
狂ったような高笑いはとても印象的、彼は自らの復讐の為に人殺しを成した。
それでも列車は静かに走る。
そして彼は目の前に佇む一機のロウボットを見つめていた。装甲が融けてボロボロのその機体に彼は「相棒」と一言。それに頷くようにロウボットが顔を上げる。
どうか、この書物を手にした者よ。この世界の真相を暴きたまえ…。
荒れ果てた広野の上にはいくつもの残骸が散らばっている。
錆び始めた鉄屑に剥がれ落ちたプレート、倒れた機体には無数の穴が開いていた。
幸いにも現在は休戦中の様で自由に観て回る事が出来た。
「しっかし、流石に使えそうな機体は残って無いかぁ」
そう呟いたのはつい数ヶ月前に成人したばかりの青年、名はグレン・ルークラフト。
こうして度々戦場に赴いているのだが彼は傭兵でもなければ軍に所属している訳でもない、ただの炭鉱夫である。
「お!このパーツは使えそうだな」
そう言って彼が手に取ったのは2mmほどの装甲板だった、これはホロウス軍の最新機体に使われているパーツなのだがグレンにはその価値が分かっていないようだ。
装甲板の右下には蛇のような形の紋章が円を描くようにして刻まれている。
「あとは…旧式ギアと三式配線を運んで…と」
気付くと軽トラックの荷台が一杯になるほどパーツを積んでいた、日が暮れるのを確認するとトラックを村へと走らせる。小一時間ほど道なりに進むとジェムの村が見えてくる。
ホロウスとコールランドの国境沿いに位置する小さな村だが戦争に巻き込まれてることは無かった。現在はホロウス側の領土だが炭鉱で栄えている点ではコールランドに似ている。
そうこうしている内にジェムの村へと帰って来た。
「おーい、グレン。またガラクタでも拾ってきたのか、全く飽きないなお前は」
「趣味ですし…っと、アレックスちょっとこいつを運ぶの手伝ってくれ」
「あのな、お前先輩をこき使うんじゃねーよ」
「今は、同僚だろ?」
「はぁ…全く…」
やれやれ、と今にも口に出しそうなアレックスを横目に自宅のガレージへとパーツを運び出す。
「よーし、ありがとうな」
「あいよ、じゃあ明日な」
アレックスが帰っていくのを確認するとグレンはそそくさとガレージに入って行った。
左端には山積みになったパーツに作業机、反対に右中央には成人男性二人分の高さのロボットと思しき機体が。
「旧式ロウボットをベースとしたオリジナル機体…ついに完成するぞ…!」
そんな大きな独り言を呟くと昼間拾った2mm装甲板をその機体の左腕に取り付ける。あと一つ足りなかった旧式ギアを嵌めると右足の稼働が可能に。そして極めつけは内部の三式配線、これが繋がることで全体への電力供給が始まる。
「あとは…エンジンを掛ければ…っと」
『システム構築、基礎言語拾得
ホロウス語ヲ確認、ゲート挿入
マスター、アナタノ名ヲ…』
「俺の名か?俺はグレン。
グレン・ルークラフトだ!」
こいつは凄い、こいつは自らを自認している。ここまで進化していたとは驚きだ、もしかしたらホロウス最新鋭の人工知能のパーツを拾ったのかもしれない。
『マスター、グレン。
デハ、ワタシの名ハ…?』
名前はとっくに決めていた。ロウボットという個体名から取って「ロウ」。
「今日からお前の名はロウだ」
『ロ…ウ?』
「そうだ、ロウ。良い名前だろう?」
『ロウ、良イ名前ダ。』
出逢いは突然やってくる、ありあわせの素材で造ったロウボットがこれほど高度な人工知能を持っているなどグレンは知らなかった。
この機体が後に大きな波乱を巻き起こすことになるのはまだ先の話である。




