【百鬼夜行】(20)
「ねえ、あたしも仲間に入れてよ!」
マリーは顔中汗まみれだった。メークも崩れかけていたるのに、汗をキラキラ光らせて、とても気分が良さそうだった。
ただ、ライブを乗っ取られたバンドリーダーは頭にきて、
「ここは、カラオケハウスじゃねえんだ。どっか、他へ行ってやんな」と追っぱらおうとした。
マリーは、
「誰もあんたに聞いてないよ」と言うや、
「ギターのあんた、あんたに聴いてるの」
といきなりタケハルに向かって言った。
「あたしが歌うから、あんたが弾くんだよ」
バンドリーダーは顔を真っ赤にして、
「お前なあ!!」と怒り出したが、タケハルが突然笑い始めた。
そして、笑いながら、
「あんた、名前はなんていうんだ」と聴いた。
「あ、あたしは、その・・・、マリー、マリーでいいよ」
「分かったマリー。俺とこのコーヘイは助っ人で来てるだけで、このバンドのもんじゃない。だから、あんたと俺だけの話ってことなら聞いてもやれるぜ」
「本当!」マリーは嬉しそうに笑顔をはじけさせた。
「だけど、俺はれっきとした堅気の人間だし、身持ちの悪い人間を仲間にはできない。そこだけちゃんとしてくれないか。約束できるな?」
それをマリーはしばらく黙って考えていた。
やがて、
「・・・、分かった。ちょっとだけ時間を頂戴」と言い残して、また夜の街に消えていった。
あれだけの腕がありながら、タケハルは音楽だけにのめり込まないように、自分のバンドを持っていなかった。だから、ほかのバンドの助っ人に呼ばれては、ステージに上がっていたんだ。
しかし、たった一人で飛び入って100人の観客を沸かせたマリーを見て、少しは本気でバンドをやる気になったのかも知れない。
時々、『ハンガーロフト』に顔を出すたびに、
「マリーという名前の女の子が来なかったか」と聴いていた。
それから半月ほど経って、またあのマリーが開演前のライブハウスに姿を現した。
でも、その時のマリーはひどい格好だった。
服はところどころ破かれ、顔や腕に何箇所も生傷があった。それで、何かにケリをつけてきたことが分かった。
目に見えている以上に、マリーの傷はひどいようだった。足を引きずってヨロヨロと歩いてきたマリーは本当に辛そうだった。
それでも、ギターの調整をしているとタケハルに向かって、
「来たよ」と目一杯笑った。
タケハルも
「よお」と短く返しただけだったが、ギターに向かっている顔はとても嬉しそうに見えた。




