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現代妖怪奇譚  作者: かざふりょじん(風吹旅人)
【百鬼夜行】編
51/238

【百鬼夜行】(20)

「ねえ、あたしも仲間に入れてよ!」


マリーは顔中汗まみれだった。メークも崩れかけていたるのに、汗をキラキラ光らせて、とても気分が良さそうだった。

ただ、ライブを乗っ取られたバンドリーダーは頭にきて、


「ここは、カラオケハウスじゃねえんだ。どっか、他へ行ってやんな」と追っぱらおうとした。


マリーは、


「誰もあんたに聞いてないよ」と言うや、


「ギターのあんた、あんたに聴いてるの」


といきなりタケハルに向かって言った。


「あたしが歌うから、あんたが弾くんだよ」


バンドリーダーは顔を真っ赤にして、


「お前なあ!!」と怒り出したが、タケハルが突然笑い始めた。


そして、笑いながら、


「あんた、名前はなんていうんだ」と聴いた。


「あ、あたしは、その・・・、マリー、マリーでいいよ」


「分かったマリー。俺とこのコーヘイは助っ人で来てるだけで、このバンドのもんじゃない。だから、あんたと俺だけの話ってことなら聞いてもやれるぜ」


「本当!」マリーは嬉しそうに笑顔をはじけさせた。


「だけど、俺はれっきとした堅気の人間だし、身持ちの悪い人間を仲間にはできない。そこだけちゃんとしてくれないか。約束できるな?」


それをマリーはしばらく黙って考えていた。


やがて、


「・・・、分かった。ちょっとだけ時間を頂戴」と言い残して、また夜の街に消えていった。


あれだけの腕がありながら、タケハルは音楽だけにのめり込まないように、自分のバンドを持っていなかった。だから、ほかのバンドの助っ人に呼ばれては、ステージに上がっていたんだ。

しかし、たった一人で飛び入って100人の観客を沸かせたマリーを見て、少しは本気でバンドをやる気になったのかも知れない。

時々、『ハンガーロフト』に顔を出すたびに、


「マリーという名前の女の子が来なかったか」と聴いていた。


それから半月ほど経って、またあのマリーが開演前のライブハウスに姿を現した。

でも、その時のマリーはひどい格好だった。

服はところどころ破かれ、顔や腕に何箇所も生傷があった。それで、何かにケリをつけてきたことが分かった。

目に見えている以上に、マリーの傷はひどいようだった。足を引きずってヨロヨロと歩いてきたマリーは本当に辛そうだった。

それでも、ギターの調整をしているとタケハルに向かって、


「来たよ」と目一杯笑った。


タケハルも


「よお」と短く返しただけだったが、ギターに向かっている顔はとても嬉しそうに見えた。

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