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現代妖怪奇譚  作者: かざふりょじん(風吹旅人)
【ろくろ首】編
3/238

【ろくろ首】(3)

「はい、丸川まるかわです。なんだ、小梅こうめちゃんか」


夕日の差し込むオフィスで、丸川まるかわ尚二しょうじは、後輩の旗屋はたや欽之助きんのすけにさせた使いっ走りを皆からなじられていた。

上司の梨田なしだ祐璃ゆうりにまでたしなめられて、仕方なしに渋々穴埋めを提案しかけたことろ、絶妙のタイミングで丸川の携帯が鳴った。

だから、これ幸いと通話ボタンを押した。


「うん、ごめん。分かってるよ。ずっと約束だったもんなあ。でもさあ、僕、結構やり手で忙しいんや」


「やり手」のくだりで、顔を見合わせる祐璃と二川ふたがわ、そして、下を向いてプッと吹き出す佐山さやまゆかり。

そんな周りの反応に構わず、丸川は続ける。


「それで、のっぴきならない用事が入って。いや、会社の業務命令。うちの上司が頭を下げて『丸川さん、あなたに頼むしかないからお願い』って。そう、それ。でね、うちに気の利く若いのがいたから行ってもらったんだよ。・・・、そりゃ確かに風さいはさえないけど」


「え?僕のことですか?」と、自分の顔を指さす欽之助。側で佑璃が苦笑いをする。


「ん、・・・、あっ、そう!いつも、有難う。・・・、え?今度も旗屋一人で?そおかあ・・・、分かった。でも、ヤツの都合も聞かなきゃ。また、電話するね」


プチッ。ツー。


電話を切った丸川が振り返って言った。


「おい、ハタキン、喜べ。怪我の功名だ」


「誰からですか?」


「さっきまで話してた団地のおばちゃん達の中に、丸っこい顔のおばちゃん、いただろう?」


「ああ、山田さん」


「あの、おばちゃんがな、客になりそうな若い姉ちゃんがいるから、明日にでも来いって」


「明日ですか?」


そう言って欽之助は、胸ポケットの手帳を取り出して予定を確認した。


「明日なら、午後から空いてます。また、団地の下の『クレーム』で良かったですか?」


「すごい名前だねえ。お店?」


みゆきが聞き直す。


「じゃあ、明日昼から『クレーム』な。連絡は俺からしとく。あと、お前一人で来いってよ」


「えー、また僕一人ですか?」


「しょうがねえだろ、向こうが一人で来いっていうんだから。その代わりよ、これが決まったら全部お前の数字でいいから」


「良かったじゃない」


話を聞いていた祐璃が少し大げさに喜んだ。


「あ、有難うございます」


「私にではなく、ほら」


「はい?」


「旗屋君、ちゃんと先輩にお礼言わなきゃ」


「あ!はい!マル先輩!有難うございます」


欽之助は弾かれるように、丸川に向いて頭を下げた。


「じゃあ、今回のことは、これで全部チャラってことで」


ちゃっかりと帳消しを企む丸川。

そして、


「それとな、今度の客、小説家さんらしいぞ。『朧の寒苦鳥』って本、調べとけって、言ってたぞ」


「え、それ題名ですか?メモりますから、もう一度お願いします」


・・・


さて、その翌日。


旗屋が例の団地のおばちゃん連と約束した喫茶『クレーム』。

そこには、おばちゃんたち3人と、うつむき加減の若い女性が、不動産屋の到着を今や遅しと待っていた。

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