【ろくろ首】(21)
「身を売って取り入れ!ってことですわ!」
目から火を噴き出すような激しさで吐き捨てた逢坂結女乃の表情に、旗屋欽之助と梨田祐璃は顔の色を失った。
そして、一瞬後に一層悪い女の顔になって結女乃は続ける。
「だからね、私、賀茂野先生といい仲になりましたの。それは、何のためですって?それは、私自身のためですの。そして、私を貶めたあの男に罰を与えるためですの」
そして、目の前の湯呑みを手に取ると、マスクをずらして、中のお茶を一気に飲み干した。マスクの隙間から覗いた口の周りのできものがより一層醜悪に感じられたのは、彼女の表情がそう見せたのかも知れない。
「主任・・・」
声に出さずに、欽之助は佑璃に目配せで合図を送る。それに目で返す佑璃もまた、顔にかすかな怯えの色を浮かべていた。
「私ね」
二人の様子を楽しむように、結女乃は話を続けた。
「賀茂野先生に言いましたの。『私お願いがあるのです。実は近い知り合いが、先生が審査員を務める文学賞に応募していて、それで、彼の作品を・・・』」
そこで言葉を切った結女乃はひどく楽しげな表情を浮かべて続けた。
「『必ず候補から外して欲しいですの』。すると、先生は、『その知り合いの名前はなんと言うのかね』と聞きますの。そこで私は答えました。彼の名前『青野清一』を。そう、清いに一と書きますの」
「清一・・・」
その名前を佑璃は呟いた。
「先生は少し難しい顔をしてらっしゃったわ。なぜなら、その時まで、先生の中で一番有力候補の作品が青野の小説だったのですもの。ですけど、私の一言で、佳作にもならなかったですの。青野の夢は破れましたの。うふふ、おほほほ、おほほほほ」
愉快げに笑い出す結女乃。
「それで、さっさと尻尾を巻いて田舎に帰るかと思ったら、彼ったら、私の部屋へ居着いてしまいましたのよ。そして、執拗に肌を求めてきますの。肌を彼に許しながら、でも心は賀茂野先生のところにいましたわ。それはね、先生は私の未来そのものだし、男としてもとても魅力的な方だったからですの。青野と肌を合わせながら、私の心は冷えていました。私の心が肌の冷たさとなって彼に伝わったのね。だから、彼は私に馬乗りになりながら、上体を起こして、上から見つめますの。とても冷たい目で。とても怖い目でね。私耐えられませんでしたの。だから・・・」
そして、その時、結女乃は恐ろしいほど美しく、そして悲しげな顔をした。
「私、彼が正体もなく眠りこけた時に、縫い物に使うマチ針を彼の目に突き刺しましたのよ。刺した瞬間、カッと目を開いて睨みつけましたけど、根元まで押し込んだら痛みのあまり気絶しましたの。あとは、何本も何本も、ずっと根元まで」
(うっ・・・)
佑璃は全身を駆け上がるおぞましさを止めようがなかった。
(それって、彼女の小説話そのままじゃない・・・。まさか、お話と現実の区別がついていないの?)




