【百鬼夜行】(171)
「チリーン」「チリーン」
耳飾りのぶつかり合う音を響かせながら、宙を舞うように半妖の少女は聴衆の間をすり抜けてゆく。耳飾りの音を聴いた小鬼たちは、それに怖れて逃げ惑った。
少女に手を引かれて、梨田佑璃もまた、小菊とタケハルたちが会場を沸かせているステージへと近づいていった。
トラックのステージは、周囲に眩い照明と音楽の地鳴りを振りまく。
佑璃がステージを凝視すると、『Cogy & Stray Dogs』のメンバーたちの頭上にはとりどりの極彩色が飛び回っていた。それは、龍の乱舞のようであり、複雑に絡まりあった絹のかたまりのようでもあった。
ボーカルが、ギターが、そしてパーカッションが演奏を盛り上げるたびに、極彩色の龍は人間の耳には届かない鳴き声を上げて、会場の空気を振動させた。それに共鳴して、会場から何度も何度も歓声が起き、観客たちにとりついている小鬼たちは、彼らの発散するエネルギーを思う存分喰らった。
それは不思議な光景だった。思わず立ち止まって目を奪われていた佑璃の腕を、また半妖の少女はステージへと強く引っばる。
ステージのトラックの前には、ライブの常連たちが群らがって大きな人垣になって、とてもステージまで近づくことはできなかった。しかし、少女の耳飾りが揺れて「チリーン」と大きな音を立てると、ステージに舞狂っていた極彩色が共鳴をした。
「チリーン」
「ウワアアアアアアアアアアアアン」
「チリーン」
「ウワアアアアアアアアアアアアン」
その共鳴は耳は届かないが、人を動かす力があった。
得体の知れない大きな力に押し分けられるように、トラックの前の聴衆は突然左右へと散り、そこを少女に手を引かれた佑璃が通り抜けた。
そして、トラックの前まで辿りつくと、少女はふわりと宙に舞い、佑璃は手を引かれながら彼女を見上げた。
(さ、あんたも上がってくるんだよ)
そして、佑璃は戸惑う間も与えられず、何かに身体を宙まで持ち上げられていた。
「え?ち、ちょっと」
彼女はあまりに突然のことに足をバタつかせる。
(ほら、暴れたら危ないよ)
しかし、少女の注意も虚しく、佑璃はバランスを崩して、ステージの上に投げ出された。
演奏は終盤だった。皆んな音楽に集中していたが、ステージに突然投げ出された女性に聴衆は一瞬目を奪われた。
(あ・・・、私・・・)
ステージで一斉に注目を集めてしまった佑璃はステージに投げ出された姿勢のまま顔を上げられずにいた。




