【百鬼夜行】(150)
「は!裸って何ですか?」
ジュンの『裸踊り』のくだりに、びっくりして跳ね起きる梨田佑璃。滑稽さに、佐山みゆきが思わず吹きだした。
「プッ。主任、何寝ぼけてんの?」
「だ、だって、今誰かが『裸』って」
美次航平も佑璃を落ち着かせようと言葉をかける。
「何か、怖い夢でも見たんだろう」
「いえ、その。すいません、取り乱しました」
佑璃は少し顔を赤らめて言った。
「大丈夫だ。君が裸踊りなんて絶対あり得ないから。現に、ほら、『ダーク・レジェンド』も君のボーカルに喰われて、すっかり影が薄くなってしまった。この調子で、タケハルも喰ってしまえばいいんだよ」
「はあ・・・」
『ダーク・レジェンド』は決して悪いバンドではなかったが、荒削だけれど鮮烈な佑璃たちの演奏にすっかり存在が霞んでしまった。この調子で、タケハルたち『Cogy & Stray Dogs』も呑み込んでしまえ、と言うのだが、そんな生易しい相手でないことは、美次航平自身が誰より分かっていた。
それに、誰よりもタケハルとファイナルで演りたがっているのも彼だった。40年前のマリーの面影を断ち切って前に進むために、もと『ロブ・スティンガー』のメンバーたちで送ってやりたい。奇しくも、『バトルライブ』の形は取ったものの、これはそれができる一番のチャンスかも知れなかった。
たが、目の前の『Cogy & Stray Dogs』と『エレクトリック・マウス』の2強にファイナルの席を取られては、美次航平の願いもマリーへの思いも、そこでジ・エンドとなってしまう。
そして、ステージのタケハルは、『the Rapis』の演奏など、やはりものともしなかった。ギュイン、ギュインとギターを唸らせて、浮き足立った観客の心を押さえ込んで演奏をした。前回ボーカルで会場を沸かせたコーギーも、今回は完全に主役をタケハルに譲っていた。
タケハルはギター一本で会場を沸騰させていた。機銃掃射で薬莢がバラバラと落ちるように高音の弦を響かせ、銃弾を打ち込むように低音の弦を重く鳴かせる。これでもかと、テクニックを披露するタケハルは、まるで美次航平に向けて、「どうだ、ここまで上がってこい!」と挑発をするようだった。
タケハルのギターを聴きながら、美次は自分の手がブルブル震えていることに気がついた。そして、左手で右手を抑える。しかし、それでも震えは止まらない。
「大丈夫ですか?」
不自然に両腕を震わせている美次航平に、佑璃は黙っていられずに声をかけた。
「あ、ああ・・・武者震いって言うヤツだよ。だけど、悔しいなあ。やっぱり、タケハルは凄いなあ。カツコいいなあ。ああ、なんとしても、あの横に立ちたい。立って勝負したい」
「社長・・・」
いつもオフィスで会っている二川長治は、前で素直に自分をさらけ出せる気のおけない人物だった。
美次航平にとっても、自分の経営する会社の一社員である。しかし、その二川こと、ギタリストのタケハルが今の二人にとってはとてつもなく大きな存在に見えていた。




