【百鬼夜行】(137)
斜めの横顔を見せながら、タケハルこと、二川長治はギターの一音目を出した。
そのあまりに無造作な様が、憎らしいほど決まっている。その後方では、パーカッションのダンロクがスローンに腰を下ろして、ドラムやタム、シンバルを叩いては音を確かめていた。
そして、明転。
「ワー」という、一際大きな歓声に包まれ、照明のなかにタケハルとダンロクの姿が浮かび上がる。
その後ろから、弾む毬のように飛び出したのが、コーギーこと、『Cogy & Stray Dogs』の小菊だった。
小菊は見た目こそ童顔だが、長い手足に恵まれた高い身体能力で自在にステージを駆け回ることができた。
スタンドのマイクをひっさらうように握りしめると、
「イェー!みんな!楽しんでる!あたしは、サイコーだよ!!」と大きく跳ねた。跳ねる同時に身体をそらして足を折り曲げたから、まるで1メートルも飛び上がったように見える。
「ワーッ!」と今までのどのバンドより大きな歓声が沸き起こった。
「まるで、あの頃のマリーだな・・・」
モニターに映るステージを見ながら、コーヘイこと、美次航平がボソリと呟く。
それを耳にした梨田祐璃は、コーヘイの心が、マリーと一緒に『ロブ・スティンガー』で演奏していた40年前に飛んでいることを知った。
ステージに飛び出した女性が、観客の心を瞬時につかんでしまう、その光景は、40年前もここハンガーロフトで起こった出来事だったのだろう。
ステージのコーギーは、MCの紹介も待たずに、いきなりマイクに向かって、
「1・2」と合図する。
すると、ギターのタケハルが鋭いエレキ電子音で切り込んだ。そして、その少し後について、ダンロクのパーカッションがリズムを刻む。
まずは、タケハルのソロバートだ。
キュイン、ギュインと血のたぎるような音を響かせて、観客に自分のソウルをねじり込むようにギターが鳴きに鳴く。
それをバックにコーギーがバンドメンバーの紹介を始めた。
「ヘイ!ウィアー、コーギー・アンド・ストレイドッグス。メンバーの紹介するよ。ギター、タケハル!!」
それに答えるようにタケハルが右手を高々と上げる。
「ワー」という観客の歓声に押されて、コーギーは、
「パーカッション、ダン」と叫ぶと、ダンロクの叩くドラムとシンバルが、マシンガンのような音の弾丸を降り注ぐ。
「そして、あたしが、コーギー!みんな熱くなろうよ!イェー!!」
観客の熱気を一身に受け止めるように、コーギーは、両の手を高く差し上げた。
そして、すうっと大きく息を吸い込んだ後、マイクを口もとに寄せて、澄んだ高音でメロディを流し込んだ。




