表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代妖怪奇譚  作者: かざふりょじん(風吹旅人)
【ろくろ首】編
15/238

【ろくろ首】(15)

山田やまだ小梅こうめを見送った旗屋はたや欽之助きんのすけ梨田なしだ祐璃ゆうりの2人は、エントランスから扉を抜けて、外の階段を登り始めた。

階段と言っても、ほとんど非常階段と大差ない鉄の螺旋である。錆びて老朽化がひどく、時々ギシギシと嫌な音を立て、手すりの向こうに、地面が透けて見える。実は高いところはあまり得意でない祐璃は、地上から離れるにつれ、背中が薄ら寒くなるのに困った。

一方、見かけによらず欽之助は健脚ぶりを発揮して、彼の靴音をカンカンカンと小気味よく鉄の階段に響かせてゆく。

遅れまいと必死の佑璃。

心では、


(こら、欽之助、すこしは年上の女子を労わりなさい)と文句を言う。

そして、5階に上がりきったところで、祐璃は足を止めて、ふう、と息が吐き出した。


「あ、すいません。少し早かったですか?」


「大丈夫よ。でも、少し息継ぎをさせて」と強がりを言う。


「でも、旗屋君、階段上るの早いのね」


「昔、野球スタンドでビールの売り子のバイトしていたことがあって、つい長い階段を見ると早足になってしまうんですよ」


「へえ、男の人でもビールの売り子するんだ」


普通ビールの売り子と言えば、女子と相場が決まっている。


「僕の通ってた球場は、ビールの消費がすごくて、普通に動き回っているだけでも、どんどん売れたんで、男は女の子の何倍も大きなタンクを担がされてたんですよ」


要は、効率重視である。


「ふうん、みんないろんなことをしてるのね」


そんな軽い会話で息を整えながら、いつの間にか7階までたどり着いた。古い団地よろしく、重い鉄の扉が西側に面した通路にズラリと並んでいる。

逢坂おおさか結女乃ゆめのの住む709号室には、黒くなりかかった木製のプレートで『逢坂結女乃』と書かれていた。


「間違いないです。結女乃さんの部屋です」


「このプレートは昨日今日のものではなさそうね」


つまり、このプレートは、彼女がずっとここに住んでいることを意味している。


「やはり、ここに彼女が住んでいるのでしょうか?」


「じゃあ、旗屋君が会った人は?」


「僕は娘さんだと思います。結女乃さん本人が30くらいで出産していれば、あれくらいの娘さんがいてもおかしくありません。それに、昔の結女乃さんの写真に、僕が会った結女乃さんはとても感じが似ていました」


「そうね。そう考えると分かりやすいわね」


祐璃は、すこし考え込んでから続けた。


「すこし空想めいてるけど、私の推理よ。本物の逢坂結女は、一線を退いた後、このマンションに隠棲をして、そこで女の子を産んだ。その子は、母親そっくりな子で、結女乃さんは、まるで人生がもう一回繰り返されているような錯覚を起こしたの。それで、子供に『結女乃』と名乗らせて、母親が娘の身体で自分の代理体験をさせているとしたらどう?だから、山田さんは、結女乃さんの時間が止まっていると言ったの」


「いや、その・・・」


完全に祐璃の想像に置いて行かれた欽之助。


「いや、でも、すこしサスペンスめいているというか、テレビで見るには面白いですが、現実に体験するにしては、突飛な、気がしますよ」


祐璃は、少し尖り気味に、


「だから、すこし空想めいてる、って言ったじゃない」と返した。


それで、しまったと思った欽之助はなんとかフォローしようと焦った。


「すいません。たしかに、主任のおっしゃる通りです。少なくとも僕の考えていたことより、余程現実的です」


「そんなことは、このチャイムを押せばわかることよ」


「そ、そうですね」


そして、欽之助は重い鉄の扉の横の、色のハゲかかったチャイムを押した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ