【ろくろ首】(13)
旗屋欽之助と梨田祐璃の2人が連れ立って電車を降りると、改札の向こうに見覚えのある人影があった。
低い背をさらに丸めて、その上に丸い顔がついている。
山田小梅である。
「こんにちわ」
欽之助から声をかけた。
「今から、『クレーム』に行こうと思っていたんです」
「ああ、まあ、だいたいの時間は聴いとったから、ここで待つことにしたんさ」
「皆さん、中におられるんですか?」
「いいや、私一人さね。まあ、こんなことに、いつまでもみんなを付き合わせておけんからのお」
小梅の気まずそうな顔を見て、欽之助は、あまり良い話にはならないのではと心配になった。
「ボウズ、今日はまた、きれいどころを連れてきたの」
連れの佑璃を見て、小梅が言った。
「申し遅れました。私、梨田佑璃と申します」
「ぼくの上司です」
「この娘さんがかい?あんたといくつも変わらんじゃろお?」
意外そうに小梅が返す。
「いえ、その、見た目ほどは・・・」
と言いかけて、キッと真顔になった佑璃に慌てて口をつぐむ。
今度は、佑璃から小梅に問いかける。
「あの、今日は逢坂結女乃さんにお会いできますか?」
「ああ、ええよ。ゆめちゃんは、自分の部屋で待っとるから、直接会ってきたらええ」
そこへ、戸惑い気味に欽之助が口を挟む。
「あの、それで・・・」
「ああ、そおか。大丈夫じゃよ、わしがあんたらを案内してやる」
「それで・・・、あの後、結女乃さんはどうされてますか?」
前回、ふと欽之助が結女乃の手に触れたことで、彼女はひどく動揺した。そして、「気分が悪い」と言って、そのまま商談はお開きになった。
それを、欽之助は心配しているのだ。
「ああ、気にせんでいい。あれも男を知らんわけじゃないし。ただ、若い男に触れられたのが久しぶりだったんで、すこし動転しただけなんよ」
「それで・・・」
いたたまず欽之助が言葉を発する。
「ん?」
「結女乃さんは、本当に逢坂結女乃さんなんですか?」
立ってする話ではないと思ったものの、どうしてもその核心に触れずにはいられなかった。
「何だと?逢坂結女乃は、一人だけさ。他に、誰がおる?」
「と言っても、『朧の寒苦鳥』を書いた逢坂結女乃は、もう30年も前の人じゃないですか?それが、20代の若い女性を逢坂結女乃本人と言われても、とても信じることはできません」
「厄介なんは、の・・・」
そう言いかけて、小梅はしばらくひどく難しい顔をした。
そして、数十秒黙った。
その次の言葉を待つ間を、欽之助と佑璃はひどく長い間に感じた。
「厄介なんは、の、この辻褄の合わん、おかしな話が、これに関係しとる誰にとっても、切実なまでの現実っちゅうこっちゃ」
そこで、明らかに怪訝そうな表情を浮かべている欽之助と佑璃に対して、小梅は言葉を継いだ。
「分からんゆう顔をしとるな。ま、無理もない。しかしのお、考えてもみい。わしらにとって、現世とはなんじゃ?それは、目や耳や鼻や舌や、そんなもんから絵やら音を取り込んで、心に像を結んどる、そんなもんじゃろ?言ってみれば、わしらは夢の中に生きとるようなもんやし、夢ではなんでも起こるんよ。その一人一人の夢の世界が関わりおうとるのが社会というなら、どこまでか現実でどこまでが妄想かなんて、誰にも分からんと思うんよ」
「で、でも・・・」
「まあ、会うてくるがええわ。それで分かるんよ。あるいは、分からんかも知れんが、大した差ではなかろうて」




