【ろくろ首】(10)
「あ、似てるなあ、って言っても雰囲気がですよ。だって、僕の会った人は、なんかすごく病んでましたし、おしゃれどころか、着の身着のままって感じだったし」
旗屋欽之助は、丸川尚二に変な予断を与えまいと慌てて言葉を足した。
「バカ、当たり前だ。逢坂結女乃がいくつになると思ってんだ」
「なら、例えばですよ」
欽之助は言葉を選びながら慎重に言った。
「逢坂結女乃に娘がいて、母親の名前を使っているとか。ね、そうしたら、年齢の辻褄も合うでしょ?」
「他人の空似じゃねえのか?」
「いいえ、逢坂結女乃の関係者と考えた方が、いろいろと説明がつきます」
「まあな・・・」
そこで、丸川はすこし考え込んだ。
そして、
「にしても、あの団地のおばちゃんたち、だとしたらすこし悪ふざけが過ぎてやしないか?だって、俺たちは貴重な営業日を潰してお付き合いしてんだ。それが、全部冗談でした、じゃあ、俺ら立つ瀬がねえ」
「じゃあ、断ります?」
「そこがなあ、困るんだよな。あのおばちゃんたちには、それなりに世話になってるし、こちらから一方的に下ろしてくれでは、人間関係者が悪くなる」
「じゃあ、続けます?」
「ばあか、イエスノークイズか、お前は!それより、本当に買いそうなのか?」
「えっと、それは・・・」
そこで、すこし欽之助は言い淀んだ。
「なんとも微妙で・・・」
「あのなあ、よく聞けよ。ちゃんとものになる仕事なら、多少おかしなところがあっても、そこはウエルカムよ。どんどん、やったらいい。だけど、単におちょくられてんのなら、さっさとけつまくらねえと、どんどん深みにはまるぞ」
「と、言うか、いろいろ変なところはありますが、山田さんたちも、逢坂さんも、やけに真面目なんですよ。山田さんなんかは、僕の提案した物件は高すぎるって、お金の計算をして身の丈にあった家に変えようとしてましたし、逢坂さんは逢坂さんで、高くてもいい家が欲しいって、乗り気でしたし。なんか、皆さん、うそがないんですよね」
「う〜ん、俺とおばちゃんらの仲だ。一度きちんと確認してみるって手もある」
「でも、こういう場合、きちんと主任に報告して、アドバイスを貰った方がいいんじゃないですか?」
そこで、丸川はすこし困った顔をした。
「まあな、それはそうだが、あいつ、いや主任と俺は、実は同期なんだ。それが、今じゃ上司と部下だ。佑璃が優秀なのは認めるが、あまり大の男がいちいち同い年の女にお伺いをたてるって図はどうもカッコがつかねえなあ」
いまは、そんな時代ではないのに、不思議と生まれる前の昭和を引きずってるな、この人・・・、欽之助は口に出さずに心でそう思った。
「じゃあ、マル先輩、いいです。このことは聞かなかったことにしてください。僕から直接主任に相談します。それで、『丸川君には相談したの?』って聞かれたら、『あ、すいません』っていいます。それから、先輩にも入って貰えば、そんなにカッコ悪くないでしょ」
「て、言うか、お前、ストレートだな。もう少し、先輩を気遣うような言い方を覚えろよ」と、口では文句を言いながら、まんざらでもない顔をしている丸川だった。




