ビッシュとノエル
ここは何もない
閑静な住宅街にある公園
魚の鱗みたいなシルバーのニーハイブーツに
ボロボロのホットパンツ
花柄のサーマル
オレンジとブルーのツートンカラーのおだんごヘアで
黒リップに琥珀色の瞳のノエル
スカイブルーのヘアカラーで
白いスニーカーに白いジーンズと白いTシャツ
黒のスカジャンと南京錠
緑のネイルに猫もびっくりぱっちりお目目のビッシュ
ノエルはうさぎのスプリング遊具に
ビッシュはパンダのスプリング遊具に
ビッシュ
「ノエル」
ノエルは強い抗精神薬の効果が切れていてぼんやりしている
ビッシュ
「ノエル、お薬の時間だよ」
ビッシュは甲斐甲斐しくノエルにひと粒ずつ薬を飲ませた
ノエル
「ごめんなさい、どうしてビッシュを好きか忘れてた」
ビッシュ
「思い出してくれたの?」
ノエル
「うん、たぶん」
ビッシュ
「じゃあ、おてて」
ふたりは遊具に座ったまま
恋人つなぎをして空を見上げていた
ビッシュ
「おしり、痛くない?」
ノエル
「うん、バネバネはもういいよ、歩こう」
ビッシュ
「朝は冷えるね
寒い?」
ノエル
「少し寒い」
ビッシュ
「これ着な」
ビッシュは自分の着ていたスカジャンをノエルに着せた
ノエル
「もうすぐクリスマスだね」
ビッシュ
「そうだね、何しよっか」
ノエル
「…考えたんだけど
わたし、普段もわがままで、クリスマスはもっとわがままになって
自分の誕生日にはもっともっとわがままになって
ビッシュの誕生日にまでわがままになるかもしれない」
ビッシュ
「いいよ、できることならしてあげる」
ノエル
「抱きしめて?」
ビッシュはノエルをぎゅっと抱きしめた
ノエル
「ありがとう」
ノエルはビッシュの頬にキスをした
ノエル
「わたし、ビッシュのほっぺが好き」
ビッシュ
「そうなの?ありがとう」
ビッシュはノエルのおでこにキスをした
ノエル
「ビッシュをあの大きな木に縛りつけたい」
ビッシュ
「どうして?」
ノエル
「だってビッシュの髪の色が空と同化して
どこか遠くに行っちゃいそうなんだもん」
ビッシュ
「大丈夫、どこにもいかないよ
ずっとノエルのそばにいる
だから…」
ノエル
「だから?」
ビッシュ
「ノエルもどこにもいかないで
ずっと僕のそばにいて」
ノエル
「わかったよ」
ノエル
「木の葉のうえで寝よう」
ふたりはスカジャンをブランケット代わりにして
木の葉布団でひとやすみ
ノエル
「今年はシュトーレンが作りたいの
仕上げに刷毛でバターを塗るのが楽しみ」
ビッシュ
「一緒に作ろうね」
ノエル
「私たち、ミノムシみたい?」
ビッシュ
「そうかもしれない」
ノエル
「心臓の音が聞きたい」
トックン、トックン、トックン
ビッシュ
「僕もノエルの心臓の音聞きたい」
トックン、トックン、トックン
ビッシュ
「このまま眠ってもいい?」
ノエル
「うん、眠くて眠くて眠くて眠い」
ビッシュ
「重くない?」
ノエル
「重いけど眠いから大丈夫だよ」
ビッシュ
「ありがとう」
ノエル
「うん」
ビッシュ
「…ねぇ、思ったんだけど、やっぱりビッシュ・ド・ノエルを作らない?」
ノエル
すぴー すぴー
ーおやすみなさいー