ガシャン
平和な世界は平和なままを望んでいた
クソが付くくらい田舎の村は
平和そのもの
たまに大きな街から荷物を載せたトラックがやってくるだけ
贅沢さえ覚えなければ
人は僅かな世界で生きられる
太陽が照りつける大地に
2台のバイクとトラックがやって来た
村のまわりをぐるぐると爆音をたてて
走り回るとヤツらは中心の通りに停車した
1台のバイクの男は
背中からくるりとライフルをまわすと
通りに停められたボロ車の窓をぶち抜いた
ガシャンとガラスが飛び散る音のあとに
ガシャンと金属質な音をたててライフルは
次の玉を装填すると
「ありったけの金目のものと食い物を
車につめこめ!
逆らえばガラスみたいに頭が飛び散るぞ」
そう言うとライフルは傍にいた
赤ちゃんを抱いた女に向けられた
泣き出す我が子を守るべく必死に女は体で隠すが
きっと放たれた玉は貫通してしまう
「早くしろ!」
もう一台のバイクに乗ったデブが
空に向けて銃を撃った
「あの子達の為にも
みんな今すぐ持ってくるんだ!」
老人がそう言うと
村人達は真っ青な顔で走り出した
大した時間もかからずに
トラックの荷台が埋め尽くされると
デブは叫んだ
「じゃあな間抜けども!いくぞ!」
爆音を鳴らしてデブのバイクが走りはじめると
トラックも続いて走り出す
最後にライフルの男が小さな声で
「赤ん坊にまで銃口を向けて
本当にすまなかった」
首から下げた十字架をにぎりしめながら
呟いた瞬間
「あああああぁぁぁぁっ!!」
ドパンッ!!
ライフルの男の頭が吹き飛んだ
バイクとともにガシャンと倒れた体は
かけっぱなしの焼けたエンジンに触れ
異様な臭いと音を立てる
そんな光景の後ろで先ほどの老人が
似たようなライフルを持って見ていた
どうやら一矢報いるために
チャンスをうかがっていたらしい
「なんてことをするんだ!
きっと仕返しにくるぞ!!」
どこからともなく
悲鳴や泣き声が響くが老人は勇ましく
ガシャン!とライフルを鳴らし玉をこめると
「大丈夫だよ来やしない
仲間の命なんざ気にするほど
マトモな連中じゃない」
そう言うと赤ん坊を抱いた女に目を向け
「もしかしたらこの子たちは
撃たれてたかもしれない
去り際に撃ち殺すくらい簡単にやれる
クズどもだからな」
誰も何も言えず重い空気の中で
ただ赤ちゃんの鳴き声だけが響いていた