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キミの気持ちが分かっても、恋というものは分からない。  作者: 中山おかめ
1章 彼女の気持ちが分かっても、恋というものは分からない。
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玉無し芳一

◆◇五里守まひる◇◆


「な、何なんだ君は……さっき言ったとおり、入院中のお母さんのために、私はその子を迎えに来たんだよ」

「病院の名前は?」


 藤峯クンは敵意を一切隠さずに男性に向けて尋ねた。わたしは固唾を飲んで見守る。


「すぐそこのS市市立病院だ。何なら電話して確認するかい?」

「どうしてこの子がその母親の子供だと分かった」

「写真を見せて貰ったからね。すぐに分かったよ」

「この子の名前は?」

「君は何を言ってるんだ? いい加減怒るぞ!」


 男声は声を荒げ始める。しかし藤峯クンは意にも介さず、鋭い目つきで男性に聞き返す。


「この子の名前は?」

「君は馬鹿なのか? さっきから何度も名前で呼んでいるだろう。ユウキ君だよ」

「誰から名前を聞いた?」

「ハァ……言わなきゃ分かんねえかな。母親に決まってんだろう! 目を覚ました彼女から『ゆうき君』って聞いたんだよ」


 それを聞き、わたしはゆうちゃんを背後に庇った。


「それはおかしい。この子の名前は結城ゆうきまどか。『まどかちゃん』だ。女の子だし、親が自分の子供を苗字で呼ぶなんてありえない」


 チェックメイト。そう宣言するが如く藤峯クンは冷淡に告げると、男は途端に視線を泳がせ始めた。


「……な、何なんだ君は! 私は親切心でやっていることなんだぞ! 感謝されることはあっても、責められるような覚えはねえ! 舐めたこと抜かしてんじゃねえぞ!」


 男は声を荒げながら一歩ずつ後ずさる。そして身を翻し、男は走り出した。


「誰かその男を捕まえろ! 誘拐犯だ!」

「まかせて!」


 わたしは叫ぶと同時に駆け出した。あたしはものの数秒で男との距離を詰め、体当たりをぶちかます。男はバランスを崩し前のめりに転んだ。だがすぐに立ち上がり、右腕を振り上げ襲い掛かってきた。男から繰り出される全然なってない右ストレート。わたしは拳の軌跡を見切り、身を翻して回避。そして流れるような動作で裏拳を顔に叩きこんだ。地に墜ちる男。


「かっこいー」「かっこいー」


 眼を輝かせながら羨望の視線を送ってくるゆうちゃんと藤峯クン。2人の表情はまるで恋する乙女のようだった。気を良くし、わたしは雄叫びを上げる。


「平成最強のゴリラ女とうたわれたわたしにかかればこんなものよ!」

「その二つ名考えたやつひどいな……ってまひるさん!」


 藤峯クンの悲痛な叫び。入りが浅かったのか、男は立ち上がり背後からわたしに襲い掛かろうとしていた。


「こんのクソあまああああ゛あ゛!!」


 そう叫びながら突進してくる男。わたしはクルリとダンスのステップを踏む様に180度体を回転し、背後に回り込む。そしてがら空きの股間に向けて、黄金の右足をゴルフクラブのように振り上げた。


「ほわああああぁぁぁ!!」


 鶏の首を締めあげたかのような、どこか切なさすら感じる男の叫び声。男は股間を抑えながらその場に崩れた。男の急所、金的を的確に蹴り上げたんだから当然だ。これぞおばあちゃん直伝の必殺『熊殺し!』。


「ほわああああぁぁぁ!!」


 そして何故か、藤峯クンも断末魔を上げた。彼もまた股間を抑えその場に蹲っている。わたしは慌てて彼の元へ駆け寄った。


「どうしたの藤峯クン? まさか……エンパスッた!?」


 藤峯クンは涙をちょちょぎらせながらコクコクと頷く。


「が、頑張って藤峯クン! 玉無し芳一ホウイチになっちゃ駄目だよ!」

「ほ、芳一はそこも書き忘れたのか……ガクッ……」

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