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キミの気持ちが分かっても、恋というものは分からない。  作者: 中山おかめ
1章 彼女の気持ちが分かっても、恋というものは分からない。
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尻から火が出るほど恥ずかしい

◆◇五里守まひる◇◆


「ところでまひるさん。どうして特訓場所にここを選んだのかな?」

「よくぞ聞いてくれました。藤峯クンのバトンパス――」

「エンパスだ。本当に陸上好きなんだね」

「――の特訓にここを選んだのは、ズバリ! 映画館があるからです」


 藤峯クンの能力は人の感情に左右されるものだが、人がいれば必ず発動するという訳ではないようだ。現に、わたし達のいるフードコート内にもそこそこ人がいるが、藤峯クンは普通そうにしている。わたしが泣いたら彼も泣いた時のように、藤峯クンの能力が発動するにはある程度感情が揺れ動く必要があるのだ。


「映画を見ると泣いたり笑ったりするよね。すると恐らく能力が発動するけど、藤峯クンは他人の感情に流されないよう耐えるの。たとえ耐えられなくても、映画館だから何の問題もない」

「な、なるほど……」

「納得してくれた?」

「うん。そこまで考えてくれてたんだね。ありがとう」


 ありがとうという言葉に嬉しくなり、わたしは自然と笑みが零れた。すると藤峯クンも嬉しそうに笑った。彼の笑顔を見て、わたしの気分はさらに舞い上がる。すると藤峯クンもさらに満面の笑みを浮かべる。わたしはさらに気を良くし――


「まひるさん喜び過ぎ。釣られる。ちょっと喜ぶのを抑えて」


 喜びを抑えるって、どうしたらいいんだろうか。


 ***


 わたしたちは映画館のある1号館へと向かった。エスカレーターにて4階に昇り、沢山の映画ポスターに囲まれたエントランスに到着した。藤峯クンは左から右にポスターを眺めながら呟いた。


「どの映画にする?」

「『キサマの名は。』なんてどうかな? 何度見ても笑えるし、最後は感動で涙が止まらないからね」

「ふーん。じゃあチケット買いに行こうか」


 藤峯クンが先陣を切りチケット売り場に向かおうとするが、わたしはそれを引き留めた。


「待って! わたしが買ってくるから、藤峯クンはここで待ってて」

「じゃあ先にお金を……」

「いいえ。全部わたしが持つよ」

「え? でも悪いよ……」


 と、申し訳なさそうな彼の表情。


「いいのいいの。わたしが言い出したことなんだから、わたしに出させて」


 藤峯クンの返答を待たずに、わたしはチケット売り場へと向かい列に並んだ。特訓にかかる費用は自分で負担するより、他人が負担した方が意欲が上がる。そう考えての行動だった。

 列が半分ぐらい進んだ辺りでわたしは気付いた。学校が終わった後、男女2人でド・モールに来て、流行の映画を観る……これってデートじゃない?

 意識すると急に恥ずかしくなってきた。わたしは少し俯きつつ振り向いた。もしかしたら藤峯クンも同じように顔を赤らめているかもしれない。そう期待しての行動だった。

 だが……藤峯クンの表情は思っていたのとまるで違っていて、癇癪をおこす直前の子供のように顔をクシャクシャに歪めていた。


「ヤダヤダ! チカチュウのぬいぐるみ買ってくれなきゃヤダー!」


 グッズストアの正面で、小学生低学年と思わしき子供が床に転がり、駄々を捏ねていた。


「チカチュウのぬいぐるみなら家にあるでしょう!」

「違うの! ここのは限定物なのおおおーーー!!」


 子供の叫び声がフロアに木霊する。母親は申し訳なさそうな表情を周りに向けつつ、子供を叱りつけようと口を開けた次の瞬間――


「ヤダヤダ! ボクもチカチュウのぬいぐるみ欲しいいいーーー!!」


 子供の泣き声をかき消す、男子高生の喚き声。藤峯クンが先程の子供とほぼ同じ動作で床に転がり手足をジタバタと動かしていた。それを見た母親は開いた口が塞がらなくなっていた。駄々を捏ねていた子供もいつの間にか冷静さを取り戻しており、渇いた視線を藤峯クンに送っていた。


「……お母さん。僕やっぱり我慢する」

「偉い偉い。代わりにアイス買ってあげるからね」

「ワーイ!」


 親子は手を繋いでエントランスを後にした。後に残されたのは床で仰向けに寝転んだまま、両手で顔を覆い隠している藤峯クン。わたしは列から離れ彼の傍へ。藤峯クンは消え入りそうな雰囲気を醸し出していた。


「死にたい……」

「大丈夫! こういうの尻から火が出るほど恥ずかしいって言うけど、まだ火は出てないよ」

「……スルーしようかと思ったけど、一文字違う。もっと上。首より上。ヒップじゃなくてフェイス」

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