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キミの気持ちが分かっても、恋というものは分からない。  作者: 中山おかめ
5章 俺はお前が好きだけど、お前が好きなのは俺じゃない。
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文化祭に向けて

◆◇藤峯シンヤ◇◆


 秋の文化祭まで残り2週間を切った。3年生は自由参加の為、文化祭の出し物をしなくてもよいのだが、最後だからクラスとして何かしたいという声が多数だったため、ボク達のクラスは参加を表明した。だが……


「メイド喫茶」「男子死ねや」

「女装喫茶」「ぜってーヤダ」

「漫画喫茶」「学祭でやる必要ある?」

「ジャズ喫茶」「誰が演奏するのよ」

「映画喫茶」「映画部と被ってる」

「もう普通の喫茶店でいいんじゃね」「振り出しに戻んじゃん!」


 というように、何の模擬店を出すのかさっぱり決らなかった。仮にも我々は受験生。文化祭の準備で勉強時間を削りたくはない為、あまり手間のかからない喫茶店にプラスアルファした模擬店にしようと方向性は決まっていた。だが、そのアルファの部分を何にするか決まらない。


「藤峯君。何か案はない? 貴方だけ何も出してないですよ」

「と……言われましても」


 今まで文化祭には一度も参加したことがなかったため、何かと言われても思い付くものが無かった。


「何でもいーから何かない?」


 雑な指令だ。そんなやり方だからずっと決まらないんだと思ったが、間違っても口には出さない。

 クラス中の視線がボクに集中する。皆の期待の感情がうっすらとボクに伝搬されてくる。そもそも今までぞんざいに扱ってきた癖に、調子のいい連中だ。

 さて、この共感能力エンパシーを活かしてみようかと考えたが、そもそも超能力を素直に信じてくれる人なんて、このクラスにはまひるさん位しかいない。もし能力について話したら、詐欺だインチキだと皆に笑われているのは目に見えている。

 ん……インチキ?

 その言葉で、一つの店の形態がパッと閃いた。


「占い喫茶……とか?」


 ***


「あなた……入学してからずっと片思いをしている相手が居ますね」

「は、はい……」

「あなたはその人のことをとても尊敬していました。尊敬はいつしか恋慕に変わりました。違いますか」

「はい……違いません」

「その相手は……えっと、本当に続けてもいいの?」

「も、もちろん。どんと来いだ」


 目の前の女子が、決死の表情を見せた。


「……その相手は、生徒ではありませんね」


 そう告げると目の前の女子が驚きで目を見開いた。周囲のクラスメイト達も固唾を飲んで見守っている。


「つまり、あなたの片思いの相手は教師ですね」

「あ、当たりです!」


 女子達が嬌声を上げた。


「誰よ誰! 一体誰なの?」

「藤峯誰よ? 当てて見てよ!」

「ご、ごめん……流石に誰かを特定するのはちょっと無理」


 そう答えると、残念そうな声が上がった。共感能力はあくまで感情を受信する能力であり、思考を読み取るものではない。集中すれば朧げに相手の姿が浮かびはするが、誰であるかを特定するのは困難だった。想い人の姿を強く思い描いてくれればもう少しクッキリと伝わってくるのだろうが、そこまでやるのは占いというか、もはや手品の類いだ。それに、占いで詳細まで特定するのは無粋というものだろう。


「占いっていつからやってたの?」

「小学生の時にちょっと齧った位。最近はそんなに……」


 小学生の時、ボクは余り自分の能力について理解していなかった。ただ自分は極めて直感が鋭い人間だと思っていたため、占いと称し好きな物、嫌いな物を言い当ててきた。まあ、小学生の時は的中しても相手が意地を張って否定することがままあったため、そこから喧嘩によく発展したのだが。


「でもスゲーな。ほぼ百発百中じゃん! これ模擬店1位行けるんじゃね?」

「じゃあ決まりね。ウチのクラスは占い喫茶で!」


 ***


◆◇五里守まひる◇◆


 そして、クラスの模擬店は『占い喫茶』に決定した。模擬店の形態としては、タロットやトランプを使った誰にでもできる『カジュアル占い』と、藤峯クンと客が一対一で応対する『本格占い』の2種類を用意する。

 まずは客引きでカジュアル占いゾーンまで客を引っ張り、そこから興味を持った客を本格占いに誘い込むという流れだ。料金はドリンク込みでカジュアル占いは100円、本格占いは500円。学生にしては強気の値段だが、実際の占いと比較したら随分安いものだった。


「藤峯クン。大分負担が掛かりそうな気がするけど、大丈夫?」


 占い喫茶に関するミーティングの終了後、わたしは藤峯クンに声を掛けた。


「まあ、大丈夫だと思うよ。占いっていっても会話するだけだし、値段が値段だからお客さんもそんなに来ないと思うからね」

「本当に変わったよね……藤峯クンの方から案を出すなんて思わなかった」

「あれは咄嗟とっさに思いついただけだよ。それが偶々通ったってだけ。まさか小学生の時の経験が、今更役に立つとは思わなかったけど」


 藤峯クンは苦笑いしながら、でも楽しそうに話す。


「……どうして変わろうって思ったの? やっぱりわたしが言ったから?」

「ま、まあ、そうかな」


 藤峯クンは以前と比べてかなり明るくなった。彼に対する誤解も解けつつあり、クラスメイトとも大分打ち解けている。

 とても喜ばしいことだった。喜ばしいことだが……やっぱり面白くない。


「……まひるさん?」


 まずい……共感能力者エンパスである彼を前にしてこんな思いを抱いたら読み取られかねない。わたしは無理矢理テンションを上げた。


「それにしても、藤峯クンホンっと大活躍だよね! 占い喫茶もそうだし、ミスターコンにも出場するし」

「……ミスターコン、本当に参加しなきゃ駄目?」

「駄目! それに藤峯クンだったら絶対に優勝できるよ!」


 本当は彼がミスターコンに参加するのも嫌だった。でも、変わりつつある環境を、変わろうとしている彼の足を引っ張りたくない。

 だから、わたしの内に蔓延るこの醜い感情は、是が非でも隠し通さなければならない。わたしはそう決めたのだ。

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