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キミの気持ちが分かっても、恋というものは分からない。  作者: 中山おかめ
3章 たとえボクを嫌っても、ココロの穴は埋まらない。
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参ったな

◆◇五里守まひる◇◆


 わたし、五里守まひるはとても後悔していた。


――藤峯クンのそういう所キライ


 あろうことか、わたしは意中の相手にそんな暴言をぶっ放してしまった。藤峯クンにも色々と事情があるのに、わたしは自分勝手にも我を押し通そうとした。彼の傷付いた顔が、今も瞼の裏に写っている。ああ、どうしてわたしはこうも考えなしなのだろう。

 アンカーとしてスターティング位置についても頭はそのことで一杯で、第3走者の亮平に名前を呼ばれるまで、わたしはバトンを受け取ることすらできないでいた。


「おいゴリラ女ボーっとしてんじゃねえ!」


 亮平の喝で我に返り、バトンを手に取り駆け出した。だが、どうにも足が重い。前を走る3人を追い抜ける気がしない。


「まひるさん走れー!」


 そこに、正面から小鳥の歌声のような激励がわたしの耳に届いた。藤峯クンが両手でメガホンを形作り、珍しく大声を上げてた。隣で亜美ちゃんも一緒に応援してくれている。

 全身に力がみなぎっていくを感じる。重かった足が羽のように軽くなった。わたしは大地をしかと踏みしめ、足の指先一本一本まで神経を尖らせて大地を蹴り、力を余すことなく推進力へと変換し、獲物を前にしたチーターのようにトラックを駆け抜ける。

 そして1人2人3人と、前の走者を全てごぼう抜き。わたしは両手を掲げながらゴールテープを切った。


「はえー」「ゴリっち速過ぎんだろ」「まさに野獣」


 褒め言葉なのか罵倒なのか微妙に判断に迷う賞賛を身に受けながら、わたしは藤峯クンの姿を探した。彼は同じ場所からわたしに向けて手を振っていた。わたしは彼の元へ駆け寄ろうとしたが――


「さっすがゴリラ神のゴリちゃん! あそこから逆転できるなんてやっぱ人間じゃねえよお前!」


 亮平に頭を押さえつけられ、乱暴にわしゃわしゃと撫でられた。


「だからゴリラ言うな!」


 亮平の手を払いのけ、今度こそ彼の元へ向かおうとしたが、今度はクラスメイトの皆に囲まれてしまう。


「まひるさん凄い!」「さすが五里守」「ゴリラ神」

「だからゴリラ言うな!」


 クラスメイトと漫才のようなやり取りをしている内に、藤峯クンは人混みは嫌だと言わんばかりに遠くへと離れていく。そして彼に付いていく亜美ちゃん。ああっ……2人とも冷たい!


 ***


◆◇藤峯シンヤ◇◆


「いやはや……まひるさん本当に足が速いね。中学の頃からあんなに速かったの?」

「ハイ! 中学では全国大会常連だったんですよ」


 田宮さんは自分のことのようにまひるさんの偉業を自慢した。彼女は本当にまひるさんのことが好きなんだな。


「でもよかったの? まひるさんの所に行かなくて」

「え? ああはい。今はクラスメイトと喜びを分かち合った方がいいでしょうから」


 その言葉に、少し違和感を覚えた。嘘を吐いては居ないのだが何かを隠しているような、そんな曖昧な空気があった。


「ところで、田宮さんは自分のクラスの方に戻らなくてもいいの?」

「え? ああ、まあ、そろそろ戻らないとですね……」


 田宮さんから、少し残念そうな感情が伝わってくる。彼女の影響で、ボクも何だか離れがたい気分になってきた。


「……じゃあ、私はもう戻りますね」


 田宮さんは名残惜しそうにしながらボクに背を向けた。でも数歩歩いた後、唐突に彼女は振り返りボクの元へ急接近した。余りにも唐突だったため驚きで身を固めていると、彼女に前髪をかき上げられ、両目を直接見つめられ、


「先輩は髪を切った方が絶対に格好いいですよ!」


 と言い残し、乙女走りで立ち去っていった。


「……参ったな」


 彼女の尊敬とも好意ともとれるその感情に顔を熱くしながら、ボクは小声で呟いた。


――3章 たとえボクを嫌っても、ココロの穴は埋まらない。了










「……何いまの」


 そして今のやり取りを離れた位置から目撃した五里守まひるは、呆然とした様子で小さく呟いた。


...and to be continued

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