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キミの気持ちが分かっても、恋というものは分からない。  作者: 中山おかめ
1章 彼女の気持ちが分かっても、恋というものは分からない。
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共感能力(エンパシー)


 共感能力エンパシー


 テレパシーが人の思考を読み取る能力であるとするならば、エンパシーは人の感情を読み取る能力であると言える。いや、読み取るというのは語弊があるだろう。何故なら共感能力エンパシーはその名の通り、他人の感情に共感する能力なのだから。誰かが喜べば共感能力者エンパスも笑い、怒りを覚えれば一緒に声を荒げてくれる。哀しければ共に涙を流し、楽しみを誰よりも深く共有できる。そして、エンパスが誰かから好意を向けられた場合、エンパスはその能力により無条件で相手を好きになってしまうだろう。

 だが……そこにエンパス自身の感情はあるのだろうか?


 ***


◆◇五里守まひる◇◆


 グラウンドから校舎裏へと場所を移し、わたしは藤峯クンから彼の能力を掻い摘んで教えて貰っていた。


「つまり……共感能力エンパシーっていうのは人の喜びとか哀しみを、自分の事のように感じてしまう能力って事?」


 藤峯クンは無言で頷く。両目を隠すようにのばされた前髪の隙間から、涙で真っ赤に腫れ上がった瞳が見えた。先程藤峯クンが大泣きしたのはわたしが大泣きしたせいなのだ。


「だから……別にボクはあなたが好きなわけじゃなく、結婚したいとも思ってない。まひるさんから流れてきた感情が、ボクにそう言わせた」

「そうだったんだ……」

「うん。ゴメン」


 藤峯クンは申し訳なさそうに肩を落とした。


「でも……良かった!」

「えっ!?」

「わたしのことキライだから避けてた訳じゃないんだよね。わたしすっごく不安だったんだよ」

「それは……ごめん」

「ううんいいの。そういう事情があったんだから」


 藤峯クンがわたしから逃げていたのは後ろめたさ故の行動だった。そりゃあ好きでもない相手に勢いでプロポーズして、その上に本気にされたら逃げたくもなるだろう。


「お、怒ってないのか?」


 藤峯クンは意外そうに目を丸めながら尋ねてきた。


「何で? 悪気は無かったんだよね。ならしょうがない」

「……まひるさんは、気持ち悪くないのか?」


 どこか自嘲的な声だった。


「どうして? 人の気持ちが分かる能力とか素敵じゃない。わたしなんてしょっちゅうKYって言われるから羨ましいくらいだよ」

「羨ましい?」


 藤峯クンが顔を歪ませる。前髪の隙間から恨めしげな目がわたしを貫いた。


「こんな能力、羨むものじゃない。あなたは持ってないからそんなことが言えるんだ」


 藤峯クンはこの能力(エンパシー)のせいでどれだけ苦労してきたのか吐露した。

 怒っている人がいれば自分も怒りを覚えてしまい大喧嘩に発展したことが何度もある。

 泣いている人を励まそうにも自分も悲しくなり何もできない。

 喜びや楽しみを他人と共有することができるが、それは悪戯やイジメや暴力といった唾棄すべきものにまで適用されてしまう。

 喜怒哀楽全てにおいて、藤峯クンはそのままの意味で他人の感情に振り回され続けてきた。

 そして小学生を卒業するころ、ようやく藤峯クンは自分の能力を自覚したのだが、その頃には彼の周囲には誰もいなくなっていた。


「強い感情を浴びると、途端にココロを制御できなくなる。この能力のせいで、ボクは、ボクのココロの在処が分からなくなる。だったら独りの方がいい。だから、ボクにもう関わらないで……」


 明確な拒絶。そう呟く彼の声は、まるで沼の底から響くうめき声のようで、諦観ていかんに満ち溢れていた。でも……


「じゃあ特訓しかないよね!」


 でも、わたしは彼を沼から引き上げる。


「はい?」

「特訓だよ特訓。わたしも手伝うから一緒に頑張ろう!」

「えーっと……話聞いてた? そもそも何を特訓するの?」

「もちろん藤峯クンの能力をだよ」


 私は元気付けるよう、朗らかに告げる。


「特訓すればきっと、サロンパスを上手く扱えるようになる!」

「エンパスだ」

「わたしにまかせて! こう見えて陸上部の後輩に教えるのが上手いって言われてるんだから」

「い、いや、運動と超能力は違う気が……って聞いてますか?」


 既にトレーニングプランを練り始めたわたしの耳に、藤峯クンの声が届くことはなかった。

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