お神さんがみている
◆◇鬼瓦隼人◇◆
「そういえばオニトさんって料理ジャンル的には何が得意?」
調理部に入部後しばらくしてから、部長がそう尋ねてきた。
「自分イタ飯が得意っす。祖母がイタ飯好きで、しょっちゅう手伝わされていたっすから」
「イタリアンかあ。ますますオニトさんだ。因みに何が作れる?」
「ミートソーススパゲティっすね。祖母が作ってくれるのが本当に好きで、よく練習してたんす」
「へえ! じゃあ今度材料準備するから作ってみてよ!」
「部長ばっかりズルい! わたし達もオニトさんのミートソース食べてみたい!」
「勿論す! でも、祖母から聞いてたレシピがどうにもうろ覚えで、再現に四苦八苦してるところっすから、余り期待はしないで欲しいっす」
部員達は嬉しそうな声を上げ、自然と自分も笑みが浮かぶ。そして笑うとカワイイと茶化されてしまい、照れ臭さから反射的に声を荒げてしまった。でも、もう誰も自分を恐れていない。顔の作りも、笑顔の凶悪さも、短気なところも何も変わっていないというのに、今この場にいる人たちは、自分を恐れない。
『善行を積み重ねなさい。お神さんが見てくれています。必ず誰かが見てくれています。本当の隼人に気付いてくれます』
ばあちゃん……本当だな。長いこと時間がかかったけど、ようやく気付いて貰えたよ。
ばあちゃん。もしばあちゃんの言うとおり、お神さんが見てくれているというのなら、空に行ったばあちゃんは見てくれているのか? 自分、今すっごく楽しいぜ。
それと……あの時くたばっちまえ何て言ってゴメン。最期の言葉が、あんなので本当にゴメン。今はばあちゃんの説教が恋しくてたまらねえよ。
不意に、ミートソーススパゲティを作っている時のばあちゃんの顔が脳裏に浮かんだ。ばあちゃんは笑っていた。ばあちゃん特製のミートソーススパゲティが食べたくて堪らなくなった。
だが、ばあちゃんはもう居ない。ならば自分が作るしかない。ばあちゃんのように上手く作れるかどうか分からないけど、そうするしかないのだ。
すると、降って湧いたように、うろ覚えだったレシピを克明に思い出すことができた。そしてそれを部長に伝えた。
後日、レシピ通りミートソーススパゲティを作り、皆に振る舞った。美味しいとの評判の中、自分もミートソーススパゲティを口に運んだ。ちゃんと、ばあちゃんの味になっていた。情けねえことに、また涙をこぼしちまった。
――2章 真面目なんだと分かっても、怖いことに変わりない。了