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キミの気持ちが分かっても、恋というものは分からない。  作者: 中山おかめ
2章 真面目なんだと分かっても、怖いことに変わりない。
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迷惑でもいいじゃない

◆◇五里守まひる◇◆


「それで結局、二人は何をしていたの」

「平たく言えば……遊んでた」

「遊んでた!?」

「うん。ハイタッチとか、ボールのパス練習とか、隼人君が今まで独りじゃできなかったことを色々やってみたいって」


 藤峯クンがそういうと、鬼瓦は悪魔を思わせる凶悪な笑みを浮かべつつ頬を赤らめた。滅茶苦茶怖い。


「照れてるだけだから、そう怖がらないで。隼人君は態度も口も悪いけど、根は凄く真面目な人だよ」

「う、うん……まあ、藤峯クンの話を聞いていてそれは分かったんだけど……」


 わたしは訝しげな視線を彼に向けてしまう。


「何だその目はゴルア! 喧嘩売ってるんですかゴルア!」

「ハイ却下。悲しいのは分かるけど威嚇しない」


 そう言いながら藤峯クンは鬼瓦の後頭部を軽く叩いた。背の低い藤峯クンが手を伸ばしても届かない位置に頭があるため、軽くジャンプしながらだったのがちょっと面白かった。


「自分、短気なもんで……申し訳ないっす」

「え? ああ、いいのいいの。気にしないで」


 鬼瓦が悪い奴じゃなく、むしろ真面目な少年であるのならば、彼はどうして調理実習室前に座り込み、周囲を威嚇するような態度を取っていたのか。わたしはその疑問を彼にぶつけると、


「自分、実は料理が好きで……あ、お菓子作りも好きっす」

「え゛。鬼瓦が?」

「んだその反応はゴルア! 自分料理して悪いんですかゴルア!」

「ハイ却下。落ち着け」


 藤峯クンが再度鬼瓦の後頭部を叩いた。鬼瓦は冷静さを取り戻し、話を続ける。


「料理が好きなのは本当っす。祖母がそういうの好きで色々手伝っていく内に自分も好きになって。できたら、料理部に入りたいと思ってたんす」

「じゃあ入部届を出せばいいんじゃない?」

「それが、受け取りを拒否されたっす。それでさっきみたいに怒鳴っちまって」

「あー……」


 まあ、360度何処からみても凶悪な不良が訪れたら、誰だって入部を拒否するだろう。


「もう諦めたはずだったんすけど、まだ未練があったみたいで、調理実習室を眺めてたんす」

「そっか、そんな事情があったのか……ゴメンね。あの時邪魔だなんて言っちゃって」

「いえ、邪魔だったのは確かっす。自分が周りからどう思われているか十分わかっているのに、あんな場所に居座ったんすから」


 そう自嘲的に語る鬼瓦。わたしは急に彼のことが不憫に感じてきた。すると、藤峯クンが穏やかな声で、わたしに助けを求めた理由を話す。


「まひるさん調理部に知り合いとか居ない? 彼の誤解を解いて、入部させて欲しいんだ」

「いえ、誤解されたままなのは慣れてるからもう大丈夫っす。それに、自分みたいなのが入ったら、調理部にあらぬ噂が立つかもしれないから申し訳ないっす」


 鬼瓦は不機嫌そうに顔を顰めつつ言った。その形相は世界を憎んでいる悪鬼のようで、ドン引きする位に恐かった。でも……ようやく分かった。彼は悲しくて表情を歪めているのだ。ただそれが、周囲には怒っている様に見えてしまうだけなのだ。


「……駄目だよ」


 わたしは鬼瓦の目を正面から見据える。もう、彼の顔に恐怖は感じなかった。


「誤解されることに慣れちゃ駄目。それはキミにとっても、相手にとってもためにならない」


 わたしは鬼瓦に、いや、2人に向けて告げる。

 

「わたしは今日、知らないうちに鬼瓦のことを傷付けていた。藤峯クンがいなかったら、わたしは一生そのことに気付かなかった。わたしはそんなの嫌だよ。絶対に嫌。わたしだけじゃなく、きっと皆そう。誰も好き好んで人を傷付けたいなんて思わない。誰だって相手のことを誤解したくないの。ちゃんと理解したいの。だから一緒に頑張ろう。誤解を解いて、調理部に入れてもらおう」

「でも、自分短気っすし、相手を怖がらせちまうし、迷惑なんじゃ……」

「いいじゃない迷惑でも」


 わたしは笑顔で語る。彼等のココロを照らせるように、朗らかに語る。


「わたしなんて猪突猛進で馬鹿だから、しょっちゅう勘違いで突っ走って迷惑かけてるよ。迷惑上等。それが人付き合いってもんよ。人に迷惑を掛けちゃいけません何てよく言われるけど、そんなの嘘っぱち。勿論犯罪とか、そういう類いの迷惑は駄目だよ。でもね、そういうのを抜きにして、迷惑を恐れていたら人付き合いなんてできないの」


 おばあちゃんは言っていた。人は迷惑を掛けずに生きていくことなんてできない。誰もが誰かに迷惑をかけながら生きている。だから……


「迷惑を掛けてしまうことを過度に恐れるな。かけてもいい迷惑はかけなさい。そのかわり、人の迷惑を許容できる人間になりなさい。人の迷惑を喜べる人間になりなさい……ってね。まあ、これはおばあちゃんの受け売りなんだけ」


 一しきり語り終えると、2人は顔を俯かせ、何かを考え込んでいるようだった。わたしは藤峯クンのように人の感情を読み取ることはできない。だから、わたしの言葉が2人に届いているのかどうか、わたしには分からない。もしかしたら、大きなお世話だったのかもしれない。女から男への説教なんて只の迷惑だったのかもしれない。でも、それを恐れていたら何もできないのだ。


「……自分、いいんすか? 迷惑を掛けてもいいんすか?」


 やがて鬼瓦は俯けていた顔をあげ、三白眼を少し揺らしながら言った。


「勿論! 調理部に入りたいんだよね」

「入りたいっす……たとえ迷惑になっても、入りたいっす!」

「わたしにまかせて。あそこの部長は友達なの。じゃあさっそく調理実習室にGOだよ!」

「あ、ちょっと待って欲しいっす」


 わたしはその言葉でズッコケそうになってしまった。駆け出そうとするわたしを尻目に、鬼瓦は地面に捨てられていたペットボトルを拾った。その後、貼られているラベルを剥がし、水道水で中を洗い、綺麗にした後、ペットボトルをクシャクシャに潰した。そして、キャップとラベルをプラスチックごみに、潰したペットボトルを燃えないゴミ(ビン、缶、ペットボトル)と書かれたゴミ箱に捨てた。


「ま、真面目だねー」

「自分それだけが取り柄っすから」

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