誕生
暗い真っ黒な空間の中で浮かんでいる私。
ここはどこだろう。なんだかふわふわとして気持ちいい。暗闇の中一筋の光が差してきた。あの光を辿れば何処に行き着くのだろうか。行ってみよう。
だんだんと苦しくなってきた。狭い…あと少しででれそうな気がする。
あと少しあと少し。
でれたと思った瞬間一段と眩しくあたりがひらけた。
「美晴奥様おめでとうございます。可愛らしい女の子がお生まれになられましたよ。」
「はぁはぁ…ありがとう。こずえさん。生まれたのね。私の可愛い赤ちゃん。」
少し年配の女性に声をかけられ、答える長い黒髪の疲れた様子の美しい女性。優しげな眼差しに心が温まる。
「みっ美晴大丈夫かー!」
襖が勢いよく開いて紺の着物を着た男性が息をきらして現れ、美晴と呼ばれた女性に話しかける。
「旦那様落ち着いて下さい。可愛い女の子がおうまれになりましたよ。」
「そうか!美晴よく頑張ったな!どれどれ俺の可愛い娘をよく見せてくれ。」
視界が変わり眼前に男の人の顔が現れる。この人も綺麗な顔立ちをしてるな。だんだん顔が近づいて来る!近い近い!ぎゃー頬ずりしないでー!
「可愛いなあ!俺と美晴の子供は。」
「あなた子供の名前は決まったんですか?」
「ああ!勿論だよ。俺たちの子供の名前は杏里だよ。杏に里ってかいて杏里だ。杏の実のように実りある人生を送って欲しいという思いをこめた。それから故郷のように、温かい心を持ってくれるように里という字をつけて杏里だ。」
「まあ。素敵な名前ですわね。貴方の名前は杏里ですってよ。杏里ちゃん。貴方のお父さんが夜通し考えて下さったのよ。一緒に実りのある素敵な人生にしましょうね。」
女性が私のほっぺたをつつきながら顔を覗き込ませて来る。
どういうことなのだろうか?さっきから眼前で繰り広げられる光景はいったいなんなのだろうか。
ふと自分の手を見ると、そこには赤ちゃんの可愛らしい紅葉のようなふくふくした手が現れた。こっこれはどうゆうことなのよー!
「おぎゃーおぎゃー」
しかしながら自分の口から出てくる声も意味をなさない赤ちゃん特有のものだ。私はいったい全体どうなってしまったのだろうか。
「おあ。どうしたんだ!急に泣き始めたぞ!よーしよしいい子だから泣き止んでくれ!よしよし。」
「まあまあ。どうしたのかしらね。あなた私に抱っこさせてくださらない?」
「あぁ。杏里ちゃんお母さんに抱っこしてもらおうなぁ。そら。」
男性の手から女性の手に移動する私。そういう問題じゃないんだよー!あっでも、この人の腕の中は安心するなぁ。いい匂い。
「ひっくひっく」
「美晴に抱っこしてもらったら、泣き止んで来たなあ。杏里ちゃんはもうお父さんよりもお母さんの方が好きなのかい?お父さんは悲しいよ。」