2話 初陣
やっとたどり着いた町。狼との連戦で疲弊しきった僕は町の名前も確認しないで宿屋に直行する。
この町の宿屋はかなりの大きさで、ビジネスホテルとは比べ物にならないくらいに。
僕が宿屋に入ると、フロントにいたふくよかな女性が気付き話しかけてくる。
「旅人さん。ここに泊まるのかい?」
「はい。一泊だといくらですか?」
この時気づいた。「お金ってどうなっている?」と。僕は急いでパネルを確認すると所持金枠に3000Gと書いてあった。
(序盤の敵でも大体、1体5Gが関の山。だとすると、狼何体いたんだよ。自分に感心するよ)
自分の所持金に驚いていると女性が値段を教えてくれた。
「一泊20Gだよ」
(高いな。あれだな。宿屋にお友達を連れてきて豪華にすると安くなるのか。絶対それだ!なら、これはしょうがないね)
僕は20G払い部屋の鍵を貰う。鍵はよくある長い鍵だった。
今回僕が止まる部屋は5階の角部屋だ。
部屋の広さとしては1人にしてはもったいないほどだ。明らかに2人専用部屋みたいだった。
「シャワーでも浴びるか……」
僕は荷物をベッドに放り投げ脱衣所に向かう。
「かなり汗をかいたな。えっと防具の外し方は……」
僕は装備のパネルを出現させ防具を着脱すると、体の力が抜けふらついてしまった。皮だというのにそこそこの重さを持っていたため、長時間付けていた僕からしたら来ているのが普通だったのだが、NPCからすると普通じゃないんだと思った。
「はぁーもうダメだ。自分でも何を言ってるか分かんなくなってきた」
僕は手短にシャワーを浴びようといたが1つ事故が起きた。
「どれがシャンプーか分からない!え?なにこの文字。何語?」
シャンプーのボトルには日本語とは明らかに違う文字が記されていた。もうパニック。
僕はとりあえず1つボトルに対して少量をだし、体を洗う。
最初に出したのはリンスだった。なんか変な感じがして気持ち悪いし、キモイ。
次のはボディソープだった。不覚にもリンスを洗い流さず付けてしまった。さらに気持ち悪くなった。
「なんだろう……入浴中なのに状態異常が……はぁー」
僕は身体に付いた気持ち悪い液体と化したリンスとボディーソープを洗い流し、まだ試していないボトルに手を伸ばす。中身は分かっている。ボトルは元から3つしかなかった!だとすると、中身は単純明快。
「やっとシャンプー……!?」
手触りがシャンプーじゃない。なんだこれドロッとした液体が手に絡みつく。
「な、何これ!僕の知っているシャンプーじゃない」
シャンプーだと思っていたものは人でに動き出した。なんだろう……これから起こることがわかる気がする。
僕はすぐに「ホーリーデス」を放つとシャンプー(仮)が腕から消え、ボトルごと消えていた。消えたボトルの代わりに新しいボトルが出てきた。
(この世界、僕を殺そうと必死過ぎない?さすがに宿屋はやめて!)
僕は心の中で絶叫する。
「この鬼畜世界がー!」
全裸で叫ぶ。変人決定だ。
僕は手短く洗い風呂場から出る。そして、パパっとバスローブを着て荷物が乗っているベッドに行く。
荷物を開けると中からパネルが出てきた。
パネルには「持ち物」と書かれていて、自分が持っているアイテムが見れた。
「ホント、金しか持っていないなぁ……悲しくなってきた」
僕はパネルを消し、バッグをイスに置きベッドに倒れこむ。
「ヒャァー!ベッドって悪魔の代物だよ~」
一気にキャラ崩壊。仕方ない。ベッドは人をダメにする悪魔の代物だ。僕もそれにやられた。
僕はベッドに寝ころびながらパネルを出現させる。時間を見るためだ。
パネルに表示されていた時間は21:48だった。
「早いな……今日は大変だった」
殺されかけたり、殺されかけたり、殺されかけたり……
「全部殺されかけてんじゃん!この平和の時間が逆に怖くなってきた。保険としてホーリーデスでも放つか」
僕は「ホーリーデス」を使って予め予防しておく。そう言えば、ホーリ―デスってどんな呪文なのかよくわからない。
パネルで効果を見てみると、実に使い勝手のいい魔法だと知った。
ホーリーデスは自分を中心に半径10メートルの聖なる光を出す。光に当たった敵は大ダメージを受ける。実質、発動中は無敵だ、そうだ。
僕はパネルを消してうつ伏せになる。身体が休まろうとしているのか眠気がきた。
「……寝るか」
僕は電気を消すことを忘れそのまま寝てしまった。
私は白い部屋でデスクトップチェアに座りとある男を監視している。
その男は、先日転移して行った最後の人類「カルト」。
「あら。凄いわ。あいつの攻撃を止めるなんて有能ね。ん?どうしたのかしら。俯いて。『マーティ』が何かしたのかしら?」
私はカルトとその前にいる黒い靄を見る。どうやら、カルトが怒っているみたいだ。
「これって音声が入らないから不便ね~あ!マーティが消えた」
私がそう言ったと同時に先ほどまでモニターに映っていた黒い靄が現れた。
「ただいま戻った。リラ」
「おかえり、マーティ。どう?カルトは」
私はマーティにお茶を渡す。
「あいつは中々骨のある奴だ。今までの人間が無能すぎたな」
「そうね。って、あなたいつまでその格好でいるの?」
マーティはいまだに黒い靄を纏っていた。
「すまない」
それだけ告げると、一気に靄が消えて中から大柄とは決して言えない大きさの男が出てきた。
「やっぱ、この方が機体は楽だな」
「そうでしょ。私はここしばらくあの姿にはなっていないわ」
「君はならなくていいよ。今の方が儂的には好きだ」
「お世辞でもうれしいわ」
「あっ!」
マーティがモニターを見て驚いている。私も見てみるとそこには数えられない位多くの狼に囲まれたカルトの姿が映っていた。
「どこに行く気?行かせないわよ。アンドロイドが人間を助けてはいけない。特に私たちみたいな幹部はね」
私がそう言うと、移動しようとしていたマーティが戻ってきた。
「わかった。以後気を付ける」
「そうして頂戴」
私は再びモニターに視線を向けるとカルトが狼の群れから追いかけられていた。
「さぁ、最後の人類はどこまで頑張れるかしら?途中で死んじゃったりして。ふふっ。待っているわよカルト」