英雄の記録・物語の舞台
ーー戦争中に記された最古の記録にさえ、数千年前から行われていたと書かれており、故に終わることのないとされた戦争。
“永年戦争”
かつて起きた、魔族と魔族の終わらない戦いのことを、この世界に住む者はそう呼ぶ。
現存する百近い種の魔族や戦争によって滅びた数十の種族ら全てが、自らの種族が治める国の領土を広げるために、日々戦い続けていたのだそうだ。
世界のどこかで途切れることなく鳴り響く地響きーー
とまることのない血や悲鳴ーー
どこまでも広がる荒涼とした大地ーー
世界のあちこちにあるそれらを、きっと彼らは、見て、聞いて、感じていたのだろう。
身体能力は一番底辺で、種族としての特性も一切なく、他の種族より多少強力な魔力すらも、当時の者たちは上手く扱うことができない。
故に魔族という枠から外され、完全なる劣等種だと蔑まれた存在。
すなわち『人間』
劣等種故に見向きもされず、力無き第三者として戦争をみていたかれらは、その戦争の意味に疑問を抱き続けていた。
なぜ争うのだ。なぜ奪い合うのだ。みんなで強力しあい、平和に暮らせばいいではないか!と……
そんな世界を密かに夢見てきた彼らは、しかし、最弱故に行動を起こしはしなかった。
いや起こせなかった。
そんな理想、魔族には伝わらない。一瞬で消し去られて終わるのだと、明白だったからだ。
ーーことが動いたのは終戦から五年ほど前。
一人の青年が突如、人間達の小さな拠点の広場で演説をぶったのだ。
彼の夢見る理想の世界。あらゆる魔族と共存しながら楽しく暮らすという構想を。
ナガトと名乗ったその青年は、拠点が魔族にバレることを恐れた者達によってすぐさま取り押さえられた。
拠点の長を中心に多数の大人達に叱りつけられた青年は、静かに長の家を後にしようとした。
そんなナガトを呼び止めたのは、老若男女さまざまな六人の人間たちだった。
……言わなくても分かっただろう。
これが全ての始まりだ。
この後、剣聖と呼ばれるようになった六人と共に
五年に渡って世界各地を旅したナガトは、様々な知識や魔術の真理、戦闘技術や魔族の協力者などを得て、一つの国を作り上げた。
ナガトが理想とした、“魔族と人間が共存する国”そのもの。
名を晴嵐。
創設者である剣聖七人を元に、ありとあらゆる種族の理解者が集ったその国は、事実上の多種族国家で、面積や人口こそ少なかったものの、多種族故の戦闘の幅広さや、人間でも扱える新しい魔術体系によって、“勝てない”と魔族たちに思わせるほどの防衛力を発揮していた。
そこからさらに、他の国に友好条約を持ちかけて、戦争の沈静化を図っていき、さらに、各地で急激に勝敗が決したことにより十七もの国に減った中の半数、つまり八つもの国との休戦を結んだことにより、終わることのないとされた戦争は、拮抗状態を迎えることで、事実上の終わりを迎えた。
その五十年後、国を興した七人の人間は、突如として姿を消した。
後に側近となっていた獣人種から明かされたのが、彼らは四十個ものカケラになり、世界へと散ったという内容であった。
さらに詳しく分かったのはかなり後世のことではあるが、自分の長所となっていた部分をカケラとして剥離させて世界中に散りばめ、魔族や人間といった魔力を持っている生命体を依り代として、消えることなく世界に残り続けているという。
カケラの全容は謎に包まれているらしいが、カケラの存在が自分の中にあると気づくことで、そのカケラを自分のものにできるというのがわかっていて、『とてつもない剣の腕を手に入れた』や『突如として能力が発現した』といった事例が確認されているらしい。
……話がそれたが、王を失った晴嵐は、しかし、それで崩れるほど弱りはしなかった。
ナガト達が消えたからといって、築かれた技術や魔術が消えたわけではない。
すぐにとって変わるものが現れ、和平は保たれたまま、世界はようやっとあるべき場所に落ち着いたかのような安寧が訪れた。
ーーそれから、おおよそ七千年ほど経った。
何度か大きな戦争が起き、国の数が九つまで減ってはいたが、それもここ数百年はなく、小さな戦いこそ起きこそすれ、割と平和な時代が続いていた。
各国の統制も固まり、いつ戦争が起きてもおかしくない頃合いに、時代は入っていっていた。
だが、どの時代にも防衛のみを貫いて、自領土を守り抜いてきた晴嵐は依然、平和の尊重とされていて、これからもそれを貫くのだろう。
ーーと、他国の魔族達さえ、信じて疑わなかった。
ごく一部、のちに晴嵐戦争と呼ばれる戦争を引き起こした魔族達を除いて……
これは、人知れず巻き込まれていく小さな旅人達が、その小さく大きな力で進める物語
試し投稿ということで、先行して序章だけ公開させていただきます。
以降は、一話が完成し次第、一章ずつ公開していこうと思います。
いつ続きを投稿できるか分かりませんが、気長に待てる人だけ、ゆっくりしていってくださいね。
専用ツイッターもやっております。
http://twitter.com/@FXSJIOsPzqspvxo
となっているので、気軽にお越しください。