(2)
仕事も終え、帰り支度をし始める。
アイツからのメールを確認してみる。
1件。『飯、作っといたよ。』
『さんきゅ。』と送信してから帰路につく。
『次は、リバーサイド。リバーサイドです。』
最寄り駅のアナウンスと共に家に向かう。
家に着くと、アイツがリビングでゲームしていた。
「あれ、今日って休みだったっけ?」
「あ、おかえり。元々は休みじゃなかったんだけど、休みにして貰ったんだー。」
「え?なんで?」
「あっ、ほら。えっと。雨が酷くなるって言ってたし、台風来てたからね。
俺だと一度濡れると乾くの時間掛かるし、鱗の人に代わってもらったの。
バイト先だとシャワーもタオルも無いしさー。こういうとこ不便だよね。」
適材適所。水棲の種族の方が好まれる環境もあるしな。
勿論、獣人の方が好まれる事もある。
仕事はやりたい分だけやる。最低限の生活は、働かなくても国が保証してくれる。
それ以外は、店でサポート出来ないなら、国からの補助もキチンとある。
なので休む休まないも自由。良い世の中になったものだ。税金は高いけど。
「ゲームするかな。明日は休みだし。」
「俺も明日休みだよー。一緒にやる?」
「じゃ、デイリークエスト消化からやるか。」
「おっけー。宝物殿許可証集めからねー。」
外の雨は少し激しくなり、窓に雨が打ち付けられる音になってきた。
「……おーっし、デイリー消化。」
「おつかれー。」
「何か雨が激しくなってきてない?」
「そうだな、ちょっと確認しとくか。」
カーテンを開いて、窓の外を見る。
真っ暗で空が見えない。
雨粒は窓にぶつかり、大きめの跡を残していく。
風も出てきたようで少し風切り音もしている。
「ちょっと強くなってきたな。」
「……何か、これだけ降ってると昔の事を思い出すね。」
「そうそう。今朝ちょっと思ってたんだよ、俺も。」
「あの時は本当に助かったと思ったよ。あ、今でも助けて貰ってるけどね。」
「おう。こんだけ長い付き合いになるとは思いもしてなかったけどな。」
「ふふっ、そうだね。あ、ちょっと待ってて。」
アイツは電気を消して、テーブルにロウソクを何本か並べた後に、冷蔵庫から箱を持ってくる。
「どうしたんだ?何かあったっけ今日。」
「酷いなぁ。今日で十年目だよ。だから、ちょっとだけ祝いたくて、ね。」
「……そうか。そんなに経ってたんだっけ。」
綺麗にデコレーションされたケーキを取り出して、切り分ける。
片方は俺の前に。もう片方は自分用。
「じゃ、簡単だけど。十年目、おめでとう。だよ。」
「おう。おめでとう。」
もう二人とも成人しているから、シャンパンでお祝い。
俺は三十路になったところだけれど。
「これからも、よろしくね、ケント。」
「ん、よろしくな、シン。」
= 完 =