(1)
「今日は午後から雨になるでしょう。」
テレビの天気予報に告げられる。
「やだなぁ、雨とか濡れるじゃん。傘持ってくのも面倒くさいし。」
「ぐー……。」
「こっちはこっちで、気持ちよさそうに寝てるし。」
朝一発目の溜息。軽く朝食を済ませて身支度を整える。
身支度を整え終えたら、そのまま玄関を出て会社へ向かう。
電車に乗って座席に座った後、ふと昔の事を思い出した。
……そういえば、コイツとあったのも、雨の日だっけ。
あの日は、雨で地面が薄い水たまりのようだった。
コイツは一人寂しそうにバス停の椅子に座ってて。
大きめのバック持ったまま、俯いていた。
「よう。もうこの時間になると、バスは無いぞ。」
「元々乗るつもりも無かったから良いよ。」
「見たところ学生か?……家出か?」
そこまで言うと黙ってしまった。
「何か身分証みたいなのは持ってるか?」
「ヤダ。警察に連絡して帰すんでしょ。」
「それが正しいんだけど、なぁ……。」
コイツは長い間ココに居たようで、ずぶ濡れになっている。
毛並みもしぼんでる上に、今の俺の話で尻尾も下がってしまった。
「とりあえず、風邪引くだろうから、うちに来い。
飯も風呂も世話してやるから。あ、今だけな。ずっとじゃねぇから。」
「ヤダ。知らないトカゲについてっちゃダメだし。」
「おう、そうだな。じゃあ警察呼んでくるわ。」
「待って、行きます。行くから呼ばないで。」
俺の家に行く道中に聞けることは聞いてみたが、なかなかにヘビーな内容だった。
両親は居ない、親戚は居るが頼れない。一人暮らししていたが、騙されて無一文。
数日前から路上生活。学校にも連絡出来ず、学校にも行きたくない理由がある。
そしてさっきまで、どうするか悩んでたところらしい。
「ほれ、まずさっさと風呂入れ。」
そう言って、バスタオルを投げて渡し、風呂場を指さす。
戸惑ってバスタオルと風呂場を何度も見ているようなので、
玄関から背を向けて一言。
「そっち向かないで居てやるから、玄関で全部脱いで、そのまま風呂入れ。
それとも俺が脱がせて洗ってやろうか?」
一回転んだ音がしたが、慌てて脱いで風呂場へ走りこんで行った。
風呂場のドアが閉まったのを確認する。
「風呂のシャワーは使い方分かるよな?一般的な奴だし。
シャンプーやら何やらは、竜人用しかねーから、
ソコに置いてる種族共通用の石鹸でも使ってくれ。
汚れが落ちるだけでも随分違うだろ。」
言うことだけ言い終わったら、俺はリビングに戻って飯を作り始める。
暫くするとバスタオルを腰に巻いて恥ずかしそうに出てきた。
「飯、嫌いなものとかあるか?」
「……ない。たぶん大丈夫。」
「ほれ。」
出来立ての皿に盛った炒飯を渡すと、美味しそうに食べた。
「うまい。ごちそうさま。」
「おう。あー、とりあえず今日はそのままの姿で我慢してくれ。
洗っては居るけど、乾くの明日の朝だろうし。
どうしてもって言うなら、コンビニで下着だけ買ってくるぞ。」
「恥ずかしいけど、このままでいい。」
「分かった、さんきゅな。サイズ分かんねえから、風呂入ってる間に買ってこれなかったんだよな。」
改めて姿を見ると、オレンジ色の毛の犬獣人だった。
少し暑そうなくらいに、フワフワした毛。
今はセットも何もしてないから、ボサボサのままだが。
「……で、何で助けてくれたの?」
「そうだな。単純に、興味があったから、ってのでもいいか?」
「え、オジサン、そういう事なの?」
「そう言われたら確かに俺はゲイではあるけど。」
「……俺もゲイだけど。」
「なら大したことではないな。」
「いやなんかソレだと下心で救われたのか俺、ってなるじゃん。」
「半分は間違ってないと思うぞ。」
「もう半分は?」
「よくある『捨て犬拾っちゃう』とかそういう奴。」
「それもそれでヤダ。」
コップに麦茶を注いで、コイツに渡す。
「さんきゅ。」
「まだ名前聞いてなかったな。聞いてもいいか?」
「あぁ、うん。俺の名前は―――――」
『次は、ミストストリート。終点です。』
長く感慨にふけってしまった。電車を降りて職場に向かった。