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無法者たち


「さて、ナッガイ。お前も此処には、ノミカイをしに来たんだろォ?」


 いつまでもこそこそとしている訳にはいかない――――まだ震える手を握り、覚悟を決めてナッガイは立ち上がる。

 「あぁ、そうだ」――――そう返そうかとも思ったが、そこまでの勇気はまだなく、眼のみで返事をした。

 その途端、ハッマーダのオチョコが高速で顔前を通り過ぎる。それはナッガイが間一髪のところでかわしたからであり、破壊的カンパイに反応できなかったからである。

 しかし、続く二発目はジョッキで受け止め、正面から口撃を防ぐことに成功した。


「ほォ、やるじゃないか」


 と、ハッマーダ。口の端を不気味につり上げた。

 そこへテンインの告げる最期の合図、終末のラッパ、すなわち『ラスト・オーダ』。こうなってしまえば、盤上に点在するアルコホールを用いた消耗戦しかできない、言わばアルコ的サドンデス。どちらの手数が先になくなるのかが勝敗の分かれ目となる。

 だが、新参アルコホリッカー、ナッガイと言えど、此度のノミカイは体育の時間をぼーっと過ごす小学生のようには見学していなかった。


「オラッ! ヨイショッ! カンパイだァ!」「ハッ! セイヤッ! カンパイッ!」


 瓶には瓶を、缶には缶を。ナッガイはハッマーダのアタックにあわせ、適切にサカズキを選択していく。

 それもそのはず、彼は今までノミカイ参加者全員の手の内を見ていたのだ。一番経験の浅い彼は、初めからこの究極見学吸収術を実行することが目的だったのだ!

 しかもそれだけではない。ぶつけあい、消耗していくアルコホールとアルコホリッカー。ナッガイはこうなることを踏まえ、虎視眈々と詰め込んでいたのだ。防護策――――タベモノ・バリアを。

 アルコアタックは即効性に見えるが実はそうではない。アルコホールが体内に吸収され、血中のアルコ指数が上昇することで人は迷体――メイテイ――状態へと移行する。

このとき、体内のバリア機能たるカンゾウ・ライク・ファイアウォールのアルコホール分解処理能力が高い者ほど上位アルコホリッカーとして名を馳せる訳だが、それ以外にも体内にバリアを張ることは可能だ。

 それが、『食事をすること』、そして『チェイサーを補給すること』のふたつ。これらを十分に行った状態、そしてその防護策そのものをタベモノ・バリアと呼ぶのである。

 タベモノ・バリアを張ることで血中のアルコ指数上昇は緩やかとなり、アルコアタックによるノックアウトを遅延させることができる。しかしこれは下位アルコホリッカーや初級者の使う最も初歩的な手段であり、名高く、そして気高いアルコホリッカーであればまず使わない、戦術としては実に陳腐で地味なもの。しかしながら、だからこそ、ナッガイはそこにつけ込んだ。アルコホリッカー達の華のような戦いの舞台に泥を持ち込んだ、いや華やかな戦いを泥仕合にし腐ったのだ!

 だが、これだけで退けられるほど、このアウトローは甘くない。彼はむしろこの逆境とも言える状況を望んでいたかのように、笑い始めたではないか。その姿たるや、狼王を彷彿とさせ、眼光はやはり獣のごとくギラついていた。


「おもしろい! ナッガイ、お前がそこまでモンキーミラー・アルコ・ストラテジーにこだわるなら、そいつを真っ向からぶっ倒してやるッ!」


 そう言うと、ハッマーダはエクストラ・テンインを呼び出す。そいつに小さく指示した直後、閉ざされていたフスマから数多くのアルコホール・ボトルがなだれ込もうとする様子が見えた。


「何、ィぃ・・・?!」


 その数はシャンパン・バーストをぶっ放したナーカエのアルコホール・ストックとは比較にならないほど多く、故にボトルを抱えた大量のエクストラ・テンイン達の姿が在った。


「秘技、『キープ・オブ・バビロン』。ラスト・オーダがアルコホリッカーの寿命だと勘違いしていたのなら、それは思い違いだぜ、ナッガイ」


 その言葉を皮切りに、続々とザシキ・フィールドにアルコホールが投入されていく。サカズキの強度が同じであっても、個数で負けてしまえばつまり、勝機はない。窮地は加速する一方であるかに思えた。


(もう、ダメか・・・・・・)


 ナッガイはほとんど諦めていた。というか、恨んでいたと言うべきか。六年前に散ったかつての友と交わした約束は、アルコホリッカーとしての再会だった。

 だがナッガイは、端的に言えばサボっていたのだ。


 ――――あのとき、アルコホール講習を受けていれば。

 ――――あのとき、アルコホールガイダンスを聞いていれば。


 過去の自分を恨み、うなだれる。しかしそれを無意味と分かっていない訳でなく、むしろ当人だからこそ苦しいほどに無意味さを理解していた。

 空しさに駆られ、記憶を追う。アルコホールの飛沫が飛び散るこのザシキ・フィールドで、今宵聞いた仲間達の声に包まれるというのは、存外悪くないと、ナッガイはぼんやりと考えていた。



      「おっせーぞナッガイ!」


 マサー・・・・・・。


          「幹事が遅れるとか最低だわ」


 ナーカエ・・・・・・。


「まぁ、これが”僕たち”って感じでいいんじゃない?」


 コユッキ・・・・・・。


「あー、これはもうあれだわ、ジョッキパン――――」


 そしてマスー・・・・・・。


(ん・・・?)


 もはやこれまで、そう思っていた刹那、ナッガイの灰白質に走る小さな発火があった。それはまさに天啓、奇跡の一種だった。

 ここで、勘の冴えたアルコホリッカー諸君であればもうお気づきであろう。そう、ハッマーダのアルコアタックは無秩序であり、紛れもなくアルコホシップを無視している。すなわち、アルコホール・ハラスメントなのだ。


 であれば、答えは決まっている。


 無法には無法を。コユッキの代弁者を気取り、ナッガイは。

 ノミカイの熱気に充てられ、とうにぬるくなったジョッキを握りしめて、渾身の一撃を放った。


「ジョッキ――――、パァアンチ!!」


 めり込むジョッキ。ガラスと言えど、ジョッキほどの厚みを持っていれば、その強度は人体に対し十分に高いと言える。

 そう、ナッガイはハッマーダのミゾオチ目掛けてジョッキをつきだしたのである。

 何とアルコホシップを無視した奥義だろうか。しかして、会心の運動量を引き連れた純粋な物理的暴力は、アルコ的無法者の暴走を、その一撃を以てして止めたのだ。

 ハッマーダがゆらりと倒れ込む。その瞬間は、このザシキ・フィールドにおける勝者誕生の瞬間であった。

 その元に、テンインが身を寄せるようにして近付いてきた。


「お会計と、壊れたグラスなどの弁償代、あとキープしていたボトル分の料金を頂戴しますね」


 猛烈な経済的ショックによるソサエティ・ポジション・アタックに、ナッガイは吹っ飛ばされて壁にめり込む。


「あーっ! お客様! あーッ! あぁー・・・・・・」


 うなだれるように請求書を切るテンイン。



 完杯戦争――――いつ何時であろうと、この戦いにおいて勝者はいないのである。



身内にジョッキパンチで10000字の短編書けと言われたの思い出して、書きました。

ぶっ通しで書いたので朝の6:19までかかりました。疲れました。

オチは適当です。すみません。



構想:20分

プロット:2時間

文章化:12時間



おやすみなさい。


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