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小さな王の物語  作者:
第2章 白い仮面と闇魔術
9/16

神出鬼没の護衛

彼なら、闇魔術もどうにかできるだろう。


ラウルは自分の提案にVサインを決めたが、

トールとノノルは溜息をついただけだった。



「ラインは 確かにすごい魔法使いだけど…。

 闇魔術が専門じゃないよ。どちらかというと、光魔術のほうだから。」


「それに、あいつは別の件で仕事中だ。

 今からカルティストに来ることは 不可能だろう。」


「えーっ!ラインなら解決してくれるだろー!」



せっかくの考えを台無しにされて、ラウルは拗ねたように

口を尖らせた。オノモルドがお茶をすする。



「まあ、サンコラル卿も フィンガント卿も落ち着きな。

 闇魔術に対抗できる術は他にもあるはずだよ。」



またもや沈黙が辺りを包んだが、ジンハートの隣に座っていた

ココラが ノノルに不思議そうに尋ねた。



「ノノル、確か高貴な護衛ノーブルエスコートの中に闇魔術を使う方が

 いませんでしたか?僕はいたと思うんですが…。」


「うん?…誰か、いたかな。」



ココラにそう言われて 考え込むノノルに、

トールとラウルが ぎくっ、と身を縮ませて目を閉じた。

そして 慌てて話題を変えようとする。



「あー!そういえば ノノルは寝なくても平気なのか?

 もう夜遅いぜ。そろそろ休めよ!なっ。」


「そ そうだな。この件は俺達に任せて 二人は少し休め。

 それがいい。」



しかし 二人の努力虚しく、



「…いる。」



ノノルは瞳を輝かせながら ぱちんと両手を合わせた。



「チシャが、いた!ねぇ そうだよね?チシャは…闇魔術が専門だった!」



言い終わった瞬間、ノノルの影から一瞬で人が現れた。




すらりと伸びる長身に、黒いシルクハットとタキシード。

腕には木で出来たステッキを引っ掛けていて、

手には白い手袋をしている。癖のある銀色の髪の毛は

その男の目をすっぽりと覆っていて瞳は見えない。



「オヤオヤー?こんばんは陛下。ワタシをおよびですか?」



オノモルドとジンハートとココラが 突如現れた紳士を唖然と見つめる中、

謎の紳士は気にすること無く シルクハットを外すと

ノノルに向かって丁寧にお辞儀をした。ニッと歯を見せて笑う。


そんな紳士の登場に 額に手を当て長い溜息を吐くトール。

ラウルも がっくり、と肩を下げ 頭を抱えた。



この謎の紳士こそ 高貴な護衛ノーブルエスコート『金鷲の狂気』

闇魔術の専門家 チシャ=ランタン卿である。

高貴な護衛ノーブルエスコート中でも 一番の変わり者で

趣味も自分の店の運営や、怪しい薬、新魔術の開発 といったものだった。



「お前は…ノノルが呼ぶとすぐに来るんだな…。」


「しかも いっつも影からだぜ。」


「陛下をお守りすることが ワタシの義務であり、第一優先任務です。

 いついかなる時でも 名前一つ呼んで頂ければすぐに参ります。 

 …オヤオヤ~?こんなところにお茶がありますヨ!」



チシャは シルクハットをかぶり直すと、

ノノルの分のカップを摘み、お茶を一口飲む。

なかなか美味しいですネー、ご婦人がお淹れしたのですか?と

素直に聞いているチシャを ラウルとトールは遠巻きに見つめている。



「あいつだけには関わりたくなかった…。

 あえて話題には出さないようしていたのだが…。」


「でもよーチシャは一応 闇魔術の専門家だし

 これは仕方ないっつーか…不可抗力というか…はぁ。」



チシャがノノルとともにココラに挨拶をしていると

突然、俯いていたジンハートが 立ち上がった。

腰の剣を確認して、ドアの方へと向かう。



「どこに行くんだい?」


「仲間がやられたことを 上に報告してくる。

 ココラ陛下の無事も 言ってこなくちゃなんねぇ。

 すぐに戻ってくるからよ。」


「あ、おっさん!俺も着いてっていいか?」



ラウルが 弓と矢筒を背負いながらジンハートに聞く。

ちらり、と後ろを振り返ったジンハートは 

ドアを開けて外へと出ながら 無言で頷いた。



「じゃ、ノノル行ってくるなー。」



気をつけて、と言ったノノルに対して 手を振り、

ラウルもジンハートに続いて 外へと出ていく。



「ウーン…。」



二人が出て行ったドアに視線を向け、

机に置かれていたクッキーを勝手にかじりながら

チシャは唸った。ノノルがチシャを見上げる。



「チシャ?」


「先ほどの髭の御仁…。少し、彼の心が心配です。

 …ワタシの杞憂ならいいのですガ。」


----------------------------


「おっさん、待てって。歩くの速ぇーぞ。」



ラウルは小走りになりながら 先を歩くジンハートを

追いかける。聞こえていないのか 返事は無かった。



「…おっさん!」



様子がおかしい、と感じたラウルが がっ、と服を掴み

声を大きくしてジンハートの名前を呼んだ。

それでやっと気付いたのか 何だ?と返すジンハート。



「どうしちまったんだよ?おっさん、少し変だぞ?」


「ラウル 俺ぁ別に…。」



ジンハートは 力なく首を振るが、ラウルは一歩前に詰め寄った。



「変だ。おっさん、ココラの話聞いてるときから

 おかしかったぜ。俺には分かる。」



真剣な表情をしたラウルを前に ジンハートは深く息を吸って、口を開いた。

自分が抱えている 心の中のものを吐き出すかのような 

そんな、重い口調だった。



「…俺はな ラウル。昔 弟がいたんだ。小せぇやつでよ、でも正義感だけは強かった。

 親がいなかったもんだからよ あいつと俺はずっと二人っきりで育って来てなぁ。

 いつも一緒だった。」



言葉を切り、昔を思い出すかのように 目を細めるジンハート。

ラウルは話の邪魔にならないよう 静かに聴いていた。



神への反旗ディーオスフィダレに入ったのも 一緒だったなぁ。

 隊で働く内に あいつも随分と大人になったってぇもんだ。

 俺も嬉しかった。弟が誇らしかったよ。でもあいつは……死んじまったんだ。」



ぐっ、とジンハートのこぶしが 固く握り締められる。

怒りに震えるかのように 肩が小刻みに揺れていた。



「あいつは…あいつは俺のせいで死んじまったんだ!俺が!

 俺があいつの隊を指揮しちまったから…!弟は敵に囲まれて為す術も無かった。

 …指揮官が俺じゃなかったら あいつぁ、生きて戻って 来れたんだ…。」



両膝が、地面に着く。



「あの時 大勢の仲間が死んだ…俺のせいでなぁ。今回も 俺の仲間たちがやられた。

 まただ…俺ぁまた 仲間を殺したんだ…。」



ジンハートの心の中の闇を、それを一人で抱えて生きてきた重さを、

辛さを聞いたラウルは 視線を下げ 唇を噛む。かける言葉は見当たらなかった。



空に浮かぶ 巨大な満月が、ジンハートとラウルの影を

地面に長く映し出していた。



二人から少し離れた距離にある木陰。そこにその会話を聞いている一人の

人間がいた。その人間は くすり、と微笑むと 影に溶ける様にして消えていく。



白い仮面をつけ、黒いフードをかぶっていた。


---------------------------


二人が出て行った後、オノモルドの提案で

ココラとノノルは疲れを取るため 休むことにした。

ベッドが一つしかないので 一緒に寝ることになる。



「じゃあ 少し休んできます。おやすみなさい。」



ノノルは腰に巻いていたベルトから 短剣とポーチを外すと 

チシャとトール、オノモルドの三人にお辞儀をして 

隣の部屋にあるベッドに入った。ココラと枕を分け合って 頭を乗せる。



「ココラも おやすみ。」


「おやすみなさい ノノル…。

 ……あの、今日は色々と ごめんなさい。」



隣にいるココラが 小声でノノルに謝る。

責められることを恐れるような か細い声だった。



「うん?大丈夫だよ。ココラが苦しんでる時に助けられなかった 

 私も悪いんだから。早く助けに来れなくて ごめん。

 …これで、おあいこ。ねっ?」



しかしノノルは責めるどころか ココラの方に顔を向け 

にっこりと笑った。そんなノノルの笑顔に ココラは

安心したかのように息をつく。



「ありがとう ございます…。

 あなたが…いえ、ウォルデラが 僕の味方でよかったです。」




一方 テーブルに着いている三人は 今後について話し合っていた。



「そもそも仮面の魔術師…ガロンゾフの目的は 何なのだろう。

 カルティストの崩壊を狙ってのことか?」


「なら 何で革命軍なんかを焚きつけて 回りくどい方法を取ったんだい?

 ガロンゾフの大軍なら カルティストに 簡単に攻め入れるだろう。」


「そうか…。くそ、情報が少ない。」



様々な憶測が流れる中 急にチシャが ハイ、と手を挙げた。

白い手袋が真っ直ぐ伸ばされる。



「ガロンゾフに 直接聞いてみればいいんじゃないですか。

 一番手っ取り早い方法ですヨ。」


「だが、どうやって?あの国はウォルデラを

 最も敵視しているんだぞ。話し合いが上手くいくとは思えない。」



トールが すぐさま反対するが、チシャは怯むことなくお茶を飲んだ。



「まずは…仮面の魔術師を捕まえることです。

 そうすれば ガロンゾフも黙ってはいませんヨ。

 …必ず何か接触してくるはずです。」



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