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小さな王の物語  作者:
第1章 2人の高貴な護衛
6/16

隠れ家

ジンハートは トールとラウルが高貴な護衛ノーブルエスコートだと分かると

自分に着いてくるように言った。馬に跨り、ずんずんと街中を進んでいく。



「フィンガント卿、だったな!弓は手に持っておくこった。そっちの

 あー…サンコラル卿も、剣は鞘を内側に向けて マントで隠して歩いた方が

 いい。」


「へーい。あ おっさん、俺のことラウルでいいぜ。」


「ラウル!敬語を使えと言っただろうが!…にしても何故、弓を外したり 

 鞘を内側にしないと いけないのです?」



言われた通りに金鷲の紋章を見えないよう隠したラウルとトール。その様子を

見て頷くと、ジンハートは辺りを気にしながら あまり口を動かさないように

してトールに答えた。



「…お前さん達が高貴な護衛ノーブルエスコートだと

 バレちゃなんねぇからだ。ウォルデラから来たことも言うなよ。

 革命軍のヤツらに知られちゃあ、おしめぇだ。」



トールは ふむ、と顎に手を当てた。どうやら革命軍は ウォルデラとの接触を

心底避けたがっているようだ。ウォルデラにだけ情報が来なかった、というのも

納得がいく。きっと何かしらの情報遮断対策を講じていたのだろう。



「これからお前達を ココラ陛下に会わせる。話はそれからだ。

 …カルティストには二人で来たんだろう?」


「ココラ!?無事なんだな!よかった…って おっさん!ちょっとその前に

 ゴドムの酒場ってところに寄ってくれ!ノノルがそこにいるはずなんだ。」



ラウルが、焦っているのか 早口で先ほどの出来事を説明する。おかしな箇所は

トールが補足しながら 話は進められた。



「なんと…ってことは、だ。ウォルデラの陛下まで来てんのか!そりゃあ…

 早いとこ合流した方がよさそうだな。よし、俺がおめぇらの王様拾ってって

 やるからよ 先にココラ陛下の隠れ家まで行ってくんねぇか?」



馬の方向を変更したジンハートは ポケットから汚れた巻紙を取り出すと、

適当な大きさにちぎって ペンで何やら走り書きをする。そして それを

トールに渡した。



「隠れ家の場所だ。俺の仲間がそこにいる。

 後から俺もノノル陛下を連れて行くからよ、先に行っといてくれ。」



地図を渡されたトールは 黙って受け取ったものの、悩んでいた。

ノノルのことを ジンハートに任せてもよいか、不安だったのだ。

神への反旗ディーオスフィダレのジンハートを信用できないわけではないが 

革命軍のこともあって、すぐに二つ返事を返すことはできなかった。



「ラウル…本当に陛下は大丈夫だろうか?ジンハートさんに迎えに行ってもらう

 よりも、俺かお前のどちらかが 行った方が…。」


失礼の無いようジンハートにそっと背を向け、トールがラウルに小声で

相談する。しかしラウルは 別によくねーか?と言っただけだった。



「おっさんが迎えに行く、って言ってんだからよ、俺達は先にココラんとこ

 行って事情を聞いとこうぜ。もしノノルに何かあったら…。」



持っていた弓を裏返し、金鷲を表に向けるラウル。



「こいつが知らせてくれる。だろ?トール。」


「そうだが…。」



顎に手を当て逡巡する。


ラウルの言わんとすることは分かっている。分かってはいるが…。



トールはラウルの持つ弓に刻まれた金鷲から 自分の腰に下げてある

鞘に視線を落とした。ラウルと同じ、高貴な護衛ノーブルエスコートの紋章がそこにはある。



渋った表情を見せ 悩み始めたトールに呆れるラウル。そして何の予告も無く、

その眉間に刻まれたシワに すかさず人差し指でドスッと一突きした。



「うぐっ。何をする!」


「悪いことは起こってから考えろよな。そ・れ・と!ノノルのこと堅苦しく

 『陛下』なんて呼ぶんじゃねーぞ?ここに来る前 約束しただろ。

 あいつが聞いたら悲しむぜ。」



やれやれと首を振ると、ラウルは憤然としているトールの手から地図を

奪い取り、ひょこっと体を横に倒して トールの後ろにいるジンハートに叫ぶ。



「おっさーん!じゃあ俺達 その場所に行くわ!

 悪ぃけど、ノノルのこと頼むぜ。絶対に連れてきてくれよな!」


「おう、任せとけ!お前さんたち高貴な護衛ノーブルエスコート

 とまではいかねぇが、ジンハート=ギロバーユの名にかけて 

 お前たちの大事な姫さんは 無事に送り届けてやらぁ!」



またもや がはは、と笑ったジンハートは 馬に鞭を入れると 

反対方向へと去って行った。後姿が、どんどん小さくなっていく。



「豪快というのか、奔放というのか…。

 あの人に任せてよかったのだろうか…。」


「へーきだって。さ、行こうぜ。隠れ家の場所 結構遠いぞ。」



ラウルが 指で目的地を追いながら地図を片手に歩き出す。

が、トールにむんずと襟首を掴まれたので すぐ止まった。



「っぐ!何すんだよ!!さっきの仕返しか?」


「誰がそんな子どもじみたことをするか!地図が反対だろうが!

 どこに行く気だまったく…貸せ。お前が持っていては いつまで経っても

 目的地に着かん。」


------------------------------



オノモルドは小さく息をつくと 椅子から立ち上がった。細いフレームの

眼鏡を右手で軽く押し上げ、鋭い表情になると左手でノノルを招く。



「陛下、こうしちゃいられない。仮面の魔術師が この国のすぐそこまで

 来てるなら、あたしたちはゆっくりしてらんないよ。」


「仮面の魔術師、ですか?」



ノノルも椅子から立ち上がると 酒場の出入り口に向かって

ただならぬ雰囲気を纏って歩き出したオノモルドに続く。


明るさは微塵もないが 人々でごった返している酒場の中には 

座り込んでいる人もいるので、手などを踏まないよう 気をつけながら歩いた。



「仮面の魔術師は 革命軍を先導したやつだよ。

 どうもガロンゾフの魔術師らしいけどね。」



ガロンゾフ、という国名が耳に届いた瞬間 ノノルの心臓が どくんと疼いた。



その国の名前は、忘れることの出来ない名前。

数年前の対戦で ウォルデラが決死の覚悟で戦った国。



ガロンゾフ――― 父を、殺した国である。




「どうもココラ陛下を狙っているようでね。奴が現れ始めてからすぐに

 城から避難してもらったんだよ。今は隠れ家にいる。ウォルデラには

 すぐ伝令を出したようだったけどねぇ…。届いてないってことは あいつが

 何かしたんだろうよ。…ん どうしたんだい、陛下?」


「あ…いえ、何でも…。」



ノノルは慌てて首を振ると 心を静めようと深呼吸した。

父の最期の光景は 思い出すたびに、心が潰れそうになる。



何かを察したオノモルドは そうかい、とだけ言うと 

入り口に立っている兵士の肩を叩いた。



「ちょいと 通してくれんかね。この子の気分が良くない様だ。

 外の風に当たらしてやりたいんでね。」



兵士は顔をしかめたが 後ろにいるノノルを見ると顎をくいっと動かした。

ガロンゾフという国名とともに 忌まわしい記憶を呼び起こしてしまい、

浮かばない様子になっていたノノルのことを 本当に気分が悪いと思ったようで

どうやら嘘が通ったらしい。オノモルドはノノルの手を握ると、兵士の間を

通り抜けて 酒場から外に出た。



冷たい夜気が 頬に辺り、心地がいい。空を見上げると 雲の隙間からのぞく

星一粒一粒が小さく瞬いていた。



「裏に回るよ。そこから小道が続いてる。

 真っ直ぐ行けば、ココラ陛下のいる隠れ家に着くさ。」



酒場の裏手に回ったノノルとオノモルドは、置いてあった樽の裏に

隠れるようにしてしゃがみ込んだ。オノモルドが白衣の裾を直しながら 

ポケットに手を入れる。



「よし。これを陛下に渡しておこう。ルエティの実 というものでね、

 暗い道でも光り輝いて 行く先を示してくれる。さあ。」



ポケットから出した 明るい緑い色の実をノノルに差し出す。受け取った

ノノルの手の中でちゃぷん、と実は揺れた。中には液体のようなものが

入っているらしい。



「オノモルド博士は、どうするんですか?」


「一緒に着いて行きたいところだけど あたしはこれから 

 仮面の魔術師対策さ。ぐずぐずしてられない。陛下の身が心配なんだがね、

 ルエティの実があれば大丈夫だよ。隠れ家の場所もここから近い。

 ココラ陛下によろしく言っておいてくれるかい?」


「そうですか…分かりました。それでは、また。」



一人で隠れ家に向かうことになり 緊張と不安で強張ったノノルの肩を 

オノモルドは優しく叩く。そしてナイフでルエティの実の表面に傷をつけた。

すると 空気と中の液体が触れ合い、ノノルの手の中にあった ルエティの実が淡く光り始めた。驚いて身をすくめるノノル。光は次第にまとまっていくと、

小道の先を一筋の輝きとなって照らした。



この先に ココラがいる。



もう 震えることはなかった。



「また、お会いしましょう。」



ノノルは立ち上がると オノモルドに向かって優雅に礼をした。

気をつけるんだよ、とオノモルドが見送る。しっかりと頷いたノノルは 

ルエティの実を右手に 小道へと足を踏みだした。


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