第一話ただのしがない魔法少女ですが Aパート
真面目に小説を書こうかなと思って描いた作品の一発目が二次創作……
魔法少女ものです、一応最後まで考えているので失踪はしないので生暖かく読み守ってください
「琴音、朝だよ」
声変わり前の少年のような、澄んだ声が耳朶をくすぐる。
「んにゃ……もうちょっと」
どんなに美しい声でも今の私を起こすことはできない。
「もう、遅刻するよ」
エンジェルボイスは、私を起こそうと声をかけ続けるが、私には関係ない。
だって私は寝たいんだもの。
「琴音!ほら早く起きなよ!本当に遅刻するよ!」
今度は、声と一緒にふわりふわりと頬を撫でてくる。
あまりにくすぐったいから、反対側に身体を向ける。
そこで少しだけ目を開けると、ぼんやりと時計が見えてきた。
長い針はもうすぐ12で、短い針は8にさしかかろうとしている。
「なんだもう8時か、学校は8時半からだから、あと30分寝ていられるね」
………ん?
時計の文字盤に映る私の目が、少しずつでも確実に大きく見開かれていく。
「ち、遅刻だ!」
ベッドから飛び起きてパジャマのボタンに手を掛け………たところで、部屋の隅に転がっているフェレットのような、キツネのようなネコのような、なんかモフモフしている動物に目を向けると、バッチリと目が合った。
「おはよう琴音、今日はいつもより早いね」
目が合うだけならまだしも、あろうことか人語までも話出した。
「こっち見るなぁ!」
私はその生物に向かって掛け布団を投げつけて、視界を塞いでから改めて着替えを再開する。
あのコ名前はシロっていうの。
お母さんにもお父さんにも、学校の友達にも内緒の秘密の友達。
セーラー服に着替えてトントンと階段を下りる。
そういえば、近所のお兄さんが今時セーラー服なんて珍しいねなんて言っていたっけ。
「お母さんおはよう!朝ごはんいらない!」
キッチンにいるお母さんに声をかけて、そのまま玄関に向かう。
「あらあら、琴音は今日もお寝坊さんね、はい」
玄関まで見送りに来てくれたお母さんから、お弁当をもらって朝ごはんのサンドイッチをくわえると、お母さんのエプロンからただようベーコンエッグの匂いに後ろ髪を引かれながら、
「いってきます!」
玄関を飛び出した。
なんとか電車には間に合って、スクールバス乗り場に向かって駆ける。
ぎりぎり間に合ったバスに乗り込む。
「ふう、これでひと段落」
バスの中で息をつく。
本当はもう一本遅くてもいいけど、それだと生徒が多すぎてバスに乗れなくなる可能性があった。
その時間にバスに乗り遅れると、学校まで走らなければいけない。
さすがにそれはいやだ。
汗を拭いていると、話しかけられた。
「あれ、君も走ってきたの?」
その娘は、肩まである髪を頭の後ろに縛ったスタイルで、背中にはバドミントンのラケットを背負っていた。
胸のリボンが私と同じだから、この娘も一年生だ。
「うん、あなたも?」
私が聞き返すと待っていましたとばかりに、勢いよく話し出した。
「そうそう、ここのバスってば最終はいつも混むの知ってんのに、本数増やしてくれないから……」
他愛のない話をしてると、あっという間にバスは校舎に着いた。
私はその娘と別れて、下駄箱に向かう。
「あ、あの娘の名前を聞き忘れたなぁ」
まあ、同じ校舎だしそのうち会えるだろう。
そんな軽い気持ちで、私は教室に向かった。
「おはよ……」
「おーはーよー!」
「わぶっ!?」
突然抱きつかれ、目を白黒させている私に構わず耳元で叫ばれる。
「おはよう、琴ちゃん! 変なおじさんとか、ロの付く変なお兄さんとか、レの付く変なお姉さんとかにあんなコトやこんなコトをされていないか心配で気が気が気でなかったよぉ!」
「あーもう、う・る・さ・い。あんなコトってどんなことよ」
「それをわたしに言わせるの? ちょっと恥ずかしいけど、琴ちゃんがそれを望むならガンバルよ? えーとねりょ……へぶしっ!?」
「言わんでいい!」
ハリセンで頭をはたいた。
まったく、危うく教室中の人から変な目で見られるところだった。
「あらあら」
「まりりんは……うん、いつも通りだね。おはよう」
「はい、おはようございます琴音ちゃん」
私に抱き着いて来たのが野上絢こと絢ちー、もう一人が千里鞠歌
ことまりりん。なぜ、まりりんかというと絢ちーがつけたから正直分からない。一度理由を聞いたことがあったけど、『まりりんはまりりんだよ』と返され、本人も嫌がっているわけじゃなさそうだからそのままにしてある。
二人とも幼稚園からの幼馴染で、とってもいい人たち。
「琴ちゃんにはたかれたぁ!」
絢ちーは少し性格に難があるけど。
嬉しそうに抱き着かれるのを全力で抑えていると、教室のドアが開いて先生が入ってくる。
なんとか引きはがして机に座る。
‡†‡
「相変わらず騎士君が好きみたいね」
「ぶふっ!?」
昼休み、まりりんの完全に不意打ちの一言に、私は思わず飲みものを噴き出した。
「えええええ、ちょ、ちょっとぉ! べ、別にそんにゃことないんだら!」
「琴音ちゃんはわかりやすいねぇ」
まりりんは私のことは気にしないで、のほほんと笑っている。
「騎士殺ス」
「ちょ、ちょっとぉ! まりりん! 絢ちーをとめてぇ!」
どす黒い嗤いをたたえて、今にも騎士くんのところに行きそうな絢ちーを必死に押しとどめる。
「絢ちゃん、琴音ちゃんのお胸が背中にあたっていますよ?」
その一言で絢ちーの動きがピタリと止まる。
私は別の意味で止まった。
「ちょ、ちょっとまりりん!」
遊んでいる場合じゃないとまりりんを睨むと、まりりんは相変わらず笑っているだけだった。
「琴音ちゃんのまな板おっぱ……へぎゃ!?」
いわせねーよ!
ハリセンで絢ちーの頭をはたく。
「それと、騎士くんのことはす……きとかじゃなくて、ただ、いいなぁ……って」
一度頭をはたかれてすっきりしたのか、絢ちーが半目になって
「その顔で言われても、説得力ないですよ琴音さん?」
それから先はひたすら私は騎士くんのことでからかわれ続けた。
‡†‡
「ごめんね? 今日は用事があって」
絢ちーとまりりんの誘いを断って、私は駅と反対方向へ向かう。
「シロ、こっちでいいんだよね?」
鞄にもぐり込んでいたシロに確認を取る。
「うん、大丈夫。そのまま路地を曲がって」
何のためらいもなくシロに導かれるまま、薄暗い路地に入っていく。
「これは……」
路地の先の行き止まりは、まるで陽炎のように歪んでいた。
陽炎からは、わずかに黒い霧のようなものが混ざっているが分かった。
はたから見ると異常だとわかるが、だれも気付いていなかった。
そう、私たちを除けば。
私は陽炎にそっと触れると、下へなぞった。
すると、なぞった先から陽炎に光の線が現れて、最後には陽炎に裂け目ができていた。
裂け目の先は真っ暗で、何も見えない。
だが、確かに闇の先でいくつもの目が私を見ているのがわかる。
ソレは何かを欲してるような、妬んでいるような……
そんなまなざしだった。
「琴音」
シロの声で、私は首から下げている銀の十字架がかたどられたロザリオを握る。
光が私を包んで、力が具現化されるのがわかる。
光に包まれたまま、私は闇へと踏み込んだ。
Bパートへ続く!