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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

あずかりの枝

掲載日:2026/06/20

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 うわ~、このあたりの枝、いろいろともぎ取られているなあ。やっぱり台風の影響かな。

 まさに天然の枝打ちだけど、この成長期にこれはきついっしょ、木にもダメージが入ってそうだし。庭とかでやる剪定とは、規模が違ってくるだろうしなあ。

 より強く成長させるメインのために、余分なものをふるい落とす。シビアだけど、効果的なのは否めない。これまで10人に分配していたものを1人に集中させたならば、少なくともその1人が不足にあえぐことはなくなるだろう。

 でも切り離された9人は、捨てられたも同然。自由といえば聞こえはいいが、そのじつ寄るべを失って、死へのゆるやかなカウントダウンがはじまったものだ。

 自然の摂理にのっとれば、遅かれ早かれ活動を停止し、何かの手によって分解されて、自然へかえっていくのだろう。だけども一度生えたものが、そうやすやすと消えるばかりとは限らない。

 生まれたからには力がある。その力がうまくつながる機会があったならば、あるいは。

 僕がちょっと前に、おじさんから聞いた枝についての話、聞いてみないかい?


 おじさんが一人暮らしをしていた大学生のころ。

 同じく大学生の友達から、しばらく預かってほしいと渡されたものがあったみたい。

 友達は登山部だかワンダーフォーゲル部だか、はっきりしないけれどアウトドアでの活動がメインの部活動に入っているといい、おみやげをおじさんに買ってくることが何度かあった。

 けれども、今回はただ渡すばかりでなく、預かってほしいとの頼みつき。一週間後に取りに戻るし、ご飯もおごるから引き受けてほしいとのこと。

 めったにないことではあるし、おじさんも頭のどこかでは「いや~な予感がする」とも思っていたみたい。けれども大学が長期休暇に入るところであったし、退屈をもてあます予定だったのもあって、これを承諾したみたいだ。


 預かった枝は、50センチほどの長さを持ち、自然のものとは思えないほどつるつるとした手触りを持った、青白さに富んだものだったという。本格的に色づく前の葉で、似たような彩りを見たとおじさんは話していたよ。

 細長い円錐状の表面には葉や、他の小枝などがついていたような形跡や手触りもない。先端は鋭くとがっていて、その気になれば金属の板を削って痕を残せそうなくらいだったとか。

 渡されたときも、わざわざご丁寧に緩衝材の入った桐箱を用意しているという周到さ。

 これは必要以上に出しとくものでもないと、押し入れの奥の方へしまいこんでしまったのだとか。


 おじさんが当時住んでいたアパートは壁が薄い。多少、大きい音がたっただけでも隣には聞こえてしまい、壁を叩かれたことは一度や二度じゃなかった。

 正直、おじさんとしても叩き返してやりたいくらい、隣近所の音には不愉快さを覚えている。しかし、ここでそれをやってはお下品な連中の仲間入りをしてしまうことになり、そちらにこそ抵抗を覚えた。

 じっと耐える。けれども心じゃ憤る。

 天罰下れ、この野郎と。


 枝を預かってから、二日後の夜もまた隣はうるさかった。

 人を部屋にあげて、どんちゃん騒ぎなら何度か経験があったものの、今度はどしんどしんと音を立てるものだから、おじさんのいる部屋も揺れる。

 こう、大勢を引き込んでいっせいのジャンプ、ジャンプをしているかのようだ。

 風邪の特効薬でも見つけたんだろうか、とはおじさんの談。風邪はあまりに原因となるウイルス種類が多いから、自分の免疫で叩きのめすよりなく、市販の風邪薬は症状をおさえるのにとどめているわけだ。

 ゆえに風邪ならこいつを飲めば大丈夫なんて代物を作れた日には、ノーベル賞ものかもしれない。まあ、いまほしいのはバカにつける薬だけど、とおじさんは布団の中でもぞもぞ寝返りを打ちながら考える。

 耳をふさぎながら、早くおとなしくなってくれ~と念じていると。


 ピタリと、振動がやんだ。

 分かれば、それでよろしいと言いたいところだけれども、声のひとつも上がらずに皆いっせいにストップなどとは、にわかに考えづらい。

 瞬く間に訪れた静寂。こちらもまたしばし固まり、様子をうかがうおじさんの耳元へかすかに聞こえるのは、「ずりずり……ずりずり……」と物がこすれたり、引きずれたりする時によく立つ音。

 問題は、それが隣の部屋からではなく、おそらくこの自室で響いているということ。壁を隔てたにしては、いささか鮮明に聞こえすぎているような。


 ――もしや、Gのたぐい!?


 そう思ったら、のんびり横になってはいられない。

 時刻は夜中の2時ではあるも、部屋の明かりをつけたおじさんは、常備している殺虫剤を手に取った。

 虫はそんなに好きではないけど、それ以上に不意打ちをかまされるときが一番心臓に来るものだ。ならば、心の準備がととのっている今のうちに、確実に仕留めておくに限る。

 おじさんはそうっと、自らのいる6畳間の家具たちのすき間をのぞいていくも、それらしい影はなかなか見つからない。けれども、あのこすれるような音はなおも断続的に聞こえてきた。


 押し入れの中。

 何度か聞こえる音をもとに、おじさんが特定した音源はそこだ。そっと戸を開いてみたとき、いっそうはっきりと響いてきたことで確信できた。

 あの預かった枝の入った桐箱。音の源はそこだと。

 おじさんが手に取り、縛っていた紐を外していく間も音は中からしていた。万一にも、虫が入り込んでいるとしたら、臨戦態勢になっていたほうがいい。

 最後のフタをずらす段のみ、おじさんは殺虫スプレーを構えながら、足先でちょいっとフタをどけ、中身を改めた。


 虫はいなかった。けれども中の枝には変化が見られたみたい。

 当初は箱の中央部にゆとりを持たせて置かれていたそれが、今は箱の上下に突っかかりそうなくらいに背を伸ばしている。

 そればかりか、枝の表面には紅と白色のつぶつぶとした実らしきものが浮かんでいる。どれもBB弾ほどの大きさだが、預かった当初はこのようなものがなかったのは確認済み。

 虫ではなかったものの、この異様さは当時のおじさんをびびらせて、友達へ連絡させるに十分だった。夜中の二時に。

 それでも友達は返事をよこし、すぐに枝を預かりに行く旨を告げ、本当に真夜中にやってきた。

 枝を渡し、のちほどご飯もおごられる。そして、あのうるさい隣人はその日を境におとなしくなったとか。

 普段から接触しないおじさんが、ただよく覚えているのが、おごりのご飯から帰ってきたとき、その部屋から清掃業者と思しきかっこうの男たちが出てきたこと。

 めいめいが大きい袋をサンタのようにかついで、去っていったことらしいんだって。

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