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密会

「――これでお前は晴れて王位継承者となったわけだ。お慶び申し上げよう」

 プルーウィスの王子がモンティスの王子に言った。ソルクスの言葉にイリストはくすりと笑った。

「それはどうも。これで王位は僕のもの……そして姫君は君のものだ」

「念のために言っておくが、彼女には絶対に手を出すなよ。兄の婚約者だったからなんて理由で自分の婚約者にしようとするなら、こちらにも考えがあるからな」

「そんなこと考えていないよ」

「どうだかな。彼女は優しくて賢くて美しい。誰もが求めて当然だろう」

「……それ、肯定しても否定しても厄介になるパターンじゃないか……? 君、つくづく重い男だよね。彼女はそのあたり分かっているのかな?」

「余計なことは言うなよ?」

 ソルクスが釘を刺した。すでにイリストはフィオーレに対して、ソルクスが重い男だから気をつけろと忠告したことがあるが、具体的な理由は説明していない。それがソルクスの言う「余計なこと」だ。

 イリストは肩をすくめた。

「言わないよ。彼女の婚約破棄が、君に仕組まれたことだなんて。しかも一朝一夕どころではなく、ずっとずっと前から計画されていたことだなんて」

 そう、ソルクスが婚約破棄の現場に居合わせたのは偶然ではない。前々から仕込み、アーグムの恋人アマータが新しく見栄えのするドレスを贈られて大きい舞踏会に参加しようとしていたことを確かめ、あの舞踏会が婚約破棄を告げられる場だと精度の高い当たりをつけていたのだ。

「それは言えないだろう。お前も一枚どころではなく噛んでいるからな。あの男爵令嬢を馬鹿王子に近付けてくれて助かった」

「僕がしたのは多少の便宜を計ったことくらいだよ。王子に近づくには身分の足りない男爵令嬢に対して。そもそも皇子の好みの令嬢を見つけてきたのは君だし、それに比べれば僕なんてほとんど何もしていない」

 やれやれとでも言いたげにイリストは苦笑した。対してソルクスは笑いもせずに言った。

「馬鹿王子の好みくらい分かる。……わけなどないが、ああいった分かりやすく色気のある女性に惹かれるように仕向けていった」

 イリストも真顔になった。

「……それ、初耳なんだけど」

「難しいことじゃない。幼い頃から刷り込んでいっただけだ。そういった女性を近くに侍らせ、興味を持つようにしただけだ」

「……だけ、って……」

「それと同時に、フィオーレの王妃教育にも手を加えた。色気を誇示することを厳に慎むようにと」

「…………兄の気を惹かないようにというだけでなく、他の男の目も惹かないようにということ……?」

「当然だ。どれだけ包み隠しても彼女の魅力は滲み出てしまうから、やりすぎということはない」

「…………うん、続けて……」

 半ば諦めた様子でイリストは促した。

「彼女の王妃教育が厳しいものになっていたのはモンティス国王たちの意思で、元からだ。不出来な王子を補佐させる意図があったからだな。だが、そのこと自体もフィオーレをあの馬鹿から遠ざける助けになった。ああいった手合いは、妃が自分よりも出来が良いことを嫌うからな」

「……まあ、それはそうだね」

 元々フィオーレは美貌と聡明さを買われてモンティスに連れて来られた。アーグムもそんな彼女が気になっていたようだが、その興味をだんだんと削いでいくように、他の女性に興味を向けるように、王妃教育を通じてソルクスは仕向けていた。モンティス国王は、フィオーレの食べ物や身の回りのものには気を配らせていたが、教育内容までは監視する必要を感じていないようだった。もしくは単に盲点だったのかもしれない。権力があるとはいえ他国の者であるソルクスが介入できる余地があった。自分の息のかかった者を教育係として送り込むことが可能だった。

 同じように、アーグムの周りにもソルクスが選んだ者を近づけることもできた。彼はしょっちゅう教師を追い出してしまい、素行のよくない仲間とつるむことも多かったので、そうすることは難しくなかった。

「フィオーレへの興味をなくさせて、好みを誘導して、周りに適当な者を送り込む。そうすればあいつは絶対にやらかす。狙い通りだ」

「……それ、彼女が知ったら引くと思うよ……。引くで済めばいいけれど……」

「当然、知らせるつもりはない。過去のことはともかく、裏で動いていたことなど。分かっているだろうが、絶対に教えるなよ」

「分かってるよ。多少は僕も共犯だし。兄がやらかすまでに足元を固めて実績を積み上げさせてもらったしね。あまり早くにやらかされても困ったから、君の狙いが当たってよかった」

 兄を立て、兄の治世を支えるという姿勢を見せていたイリストだが、それは兄だけではなく兄の周りにいる者たちや、王家の内部分裂を誘おうとする者たちへの目くらましでもあった。盤面が整わないうちから祭り上げられることは彼の望むところではなかったのだ。

 ひっそりとした室内で、共犯者たちは悲願の成就を祝ってワインのグラスをかちりとぶつけ合う。

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