結末
「え……わたくしの机をご覧になったのですか……!?」
「すまない。君が晩餐に来なくて、どこにもいなくて……居場所の手がかりを探す必要があったんだ。プライベートなところを申し訳ないと思ったのだが……まさか、あの頃の手紙を持っていてくれているとは思わなかった。しかも、君の手元に」
「……近くに、持っておきたかったので……」
プルーウィスに置いていく気になれなくて今回モンティスに携えてきた手紙、クッキーの缶に入れておいた思い出を……まさか本人に見られることになるとは思わなかった。嬉しいのか恥ずかしいのか、自分でもよく分からない。
だがソルクスは嬉しそうだった。それならいいか、とフィオーレは赤くなった頬を押さえて目を伏せる。そんなフィオーレの髪をソルクスは愛おしげに撫でた。
「彼女」から最後に貰った手紙では、再会したら新しい関係を結びたいということが記されていた。だが、「何に」なるのか、肝心なところが記されていなかった。また改めて友人関係を確認するのか、親友になるのか、そんなところだろうとは思いつつも気になっていたのだが……まさか、ソルクスの求婚がその続きだとは思ってもみなかった。
ソルクスは言った。
「私は性別も身分も偽っていたから、再会しても幼い時のように友人関係を築けるとは思っていなかった。だが、どんな形であれ、君に傍にいてほしかった。説明もせず、強引な形になってしまって悪かったが……君に手を伸ばさずにいられなかった。いずれ明かすつもりだったのだが……君に嫌われるのが怖くて、先延ばしにしてしまっていた」
「いえ……お気持ちは少し、分かるつもりです。でも、嫌うなんてそんなこと。わたくしはソルクス様に色々と救われておりますのに」
あのアーグムの妃になる覚悟すら固めていたフィオーレだ。ソルクスのように尊敬できる人が婚約者になったことに不満などあるはずもない。それどころか彼は、アーグムの婚約者から妃になっていたら一生知るはずもなかった恋をフィオーレに教えてくれたのだ。友情も恋情も、すべて彼のものだ。
(……そこまではまだ、言えないけれど……)
だが言わずともある程度は伝わっているだろう。ソルクスはフィオーレの頭を引き寄せて抱き込んだ。
「私の方こそ、君には色々と救われているよ。そのことも、いずれ話せるといいけれど……」
言葉はそこまでだった。言葉よりも雄弁に、仕草が気持ちを伝える。唇が額に頬に落とされて、背中に回された腕に力がさらに籠る。
婚約者という立場を尊重して、唇は重ならない。それでも、唇のすぐ横に落とされた口付けが彼の気持ちを示していた。
モンティスで居場所がなかったフィオーレは、ようやく居場所を見つけた。それはプルーウィスですらなくて……ロージア公女としての自分を認めてくれるソルクスの、腕の中だったのだ。
アーグムは失脚した。最後まで言い逃れをしようとしていたが、フィオーレに暴力をふるったことが証拠つきで明らかになり、それ以上の抵抗は封じられた。過去にフィオーレを扱き使ったり虐げたりしてきたことも、次第に明らかになるだろうとソルクスは楽しそうに――目は全く笑っていなかったが――言っていた。罪状は重くなりこそすれ軽くなることはないということだった。
代わりに王位継承者となったのがイリストだ。彼とソルクスが結んでいたことに思うところはあるのだが、モンティスにとってもプルーウィスにとっても、もちろんロージアにとってもイリストが王になってくれた方がありがたい。こちらも丸く収まることになりそうだ。
そしてロージアだが、ほとんどモンティスの属国になっている現状を変える手助けをすることを、ソルクスがプルーウィスの次期国王として約してくれた。いくら自分がロージア公女としてソルクスの婚約者になった身でも、そこまでしてもらうのは厚遇が過ぎる。とはいえ彼の差し出してくれた手を取らないわけにもいかないので、プルーウィスの利になる見返りを探し中だ。ロージアは花卉栽培の技術がかなり進んでいるし、歴史もあるので、何かしら用意することはできるだろう。
そのロージア公家に、ソルクスは釘を刺していた。パルセノがフィオーレを裏切ったことを、幼いからとはいえ見なかったことにはできないと、これは貸しだと釘を刺したのだ。次代のロージア公にプルーウィスの次期国王は大きな影響力を持つことになる。これがソルクスでなければ危ないと思うところだが、彼が理性的で助かった。過剰な要求をすることなく、パルセノへの教育をしっかり施すことなどの常識的な要求にとどめている。フィオーレもこれからは弟の成長を姉としてきちんと見守っていく所存だ。
一連のことを片付けたソルクスとフィオーレは、婚約者同士としてあらためてモンティスの舞踏会で踊った。イリストが主催したもので、彼はモンティスの次期国王としての手腕と存在感を見せつけていた。
踊り終えたソルクスはフィオーレの前に跪き、手を取って見上げた。
「改めて、私の姫君。婚約者として、私の国へ一緒に帰ってくださいますか?」
「ええ、――喜んで!」




