再会
(誰…………!?)
フィオーレはぎくりとした。いったい誰が入ってくるのだろうか。フィオーレをこんなところに閉じ込めた者たちは、いったいどんな意図があってこうしたのだろうか。
しかし次の瞬間、フィオーレは驚いて思わず声を漏らした。
「…………パルセノ……!?」
入ってきたのは、弟のパルセノだった。
(え……本当に!? どういうこと……!?)
パルセノの居場所を教えるとだまされて、フィオーレはこの囚われの状況になっているはずだ。だまされたのはそれはそれとして、まさかパルセノの本当の居場所を教えられていたというのだろうか。
「パルセノ、大丈夫!? ひどいことをされたりしていない!?」
勢い込んで問いかけるフィオーレに、パルセノは幼い顔をくしゃりと歪めた。
「お姉さま……」
「やっぱり何かされて……」
フィオーレは思わず手を伸ばしたが、パルセノはのけぞるようにして避けた。自分の身を守るように両腕を絡め、嫌々をするように首を振る。
「されていないわけがないだろう!? 見下されて、馬鹿にされて、見世物のように連れ回されて……お姉さまのせいで! お姉さまが逃げたせいで!」
「…………!」
フィオーレは伸ばした手を宙で止めた。パルセノは激しい調子で続けた。
「みんな言うんだ! ロージアは小国どころか、国とも呼べないような小さい土地でしかないって! そんなところだから公女は身売りするように大国に嫁ごうとするんだって!」
「…………っ!」
その言葉はフィオーレの痛いところを突いた。何も間違っていない。しかもそれを、助けようとした弟から……未来のロージア公である彼から言われているという事実がフィオーレを打ちのめした。
(アーグム殿下に婚約破棄されたわたくしは、ソルクス殿下の手を取るしかなかった。それを身売りと言われたら……違うとは言えない。でも……)
フィオーレには、ロージアを守る義務があったのだ。ロージア公女たる身分をないがしろにするわけにはいかなかったのだ。モンティスで失敗してしまったのはフィオーレの落ち度だが、プルーウィスでそれを挽回しようとしていた。
だが、このせいでパルセノがモンティスに留め置かれる状況になってしまっている。モンティスが悪いのは大前提だが、フィオーレの行動の選択が今の状況を引き起こしたのも確かだ。
「……パルセノ、一つだけ教えて。殴られたりとか、痛いことはされていない?」
「殴られ……? そんな怖いことを僕が? されていないよ」
「そう……。それなら、それだけは良かったわ」
フィオーレは微笑んだ。自尊心の傷つくことは多かっただろうが、体の痛みはなかったのなら、それは本当に良かった。
フィオーレももちろんモンティスで殴られるなどの扱いを受けてきたわけではないが、公女として、婚約者として、未来の王妃として求められるだろう義務には、体と心の痛みが伴うことを覚悟していた。そのために公女という高い身分があり、ロージア国民の安寧を背負っているからだ。
(パルセノはまだ幼い。こういうことを知らないのも無理はないけれど……知ってほしいとも思わないけれど……知らずにそういう態度を取られると、複雑な気持ちになってしまうわ……。わたくしもまだまだ修業が足りないわね)
パルセノに、公女が背負うものに少しでも思いを馳せてくれたらと思ってしまうのは、フィオーレの弱さだ。感謝であっても謝罪であっても、何らかの反応を示してくれたらと願ってしまうのは。
(見返りを求めて行動していたわけではなかったつもりだけれど……理解くらいは求めてしまっていたみたいね……)
フィオーレはほろ苦く自嘲した。そして気持ちを切り替えた。自分のことはここまでだ。フィオーレは周りを見回し、戸が閉まっていることを確かめ、念のために小声で言った。
「パルセノ、あなたを逃がすことを考えたいの。状況を教えてくれる?」
「僕を……逃がす?」
「ええ。わたくしもこうして捕まってしまったから、情けない状況ではあるのだけれど。でも、交渉はできるはず。情報提供や協力の約束など、こちらから提示できるカードはあるわ。たとえ一回ではあなたを逃がすことが難しくても、とにかく状況を前に進めることはできるはずよ」
小さい弟には難しい内容だったかもしれない。ちょっと言葉を選んでいる余裕がなかったが、伝わってくれていると信じてフィオーレは弟の目を覗き込んだ。
パルセノは目を逸らした。
「交渉は……いらないよ」
「どうして? わたくしにできる限りのことをするわ」
「……お姉さまがここにいてくれれば、僕は解放されるからだよ」
「…………!?」




