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監禁

 モンティスの王城にフィオーレが住んでいた時は、使用人たちのことを把握していたし、仲良くなりもした。だがフィオーレがここを離れた半年弱の間にずいぶんと使用人の入れ替えが進んだらしい。アンの顔も知らなかった。

(アンは……彼女は、信用できるのかしら……)

 疑いが心をかすめる。だがフィオーレは首を横に振って疑いを追い払った。彼女がパルセノからの言伝をもたらしたのだから、パルセノの居場所を知っているか、知っている者と繋がりがあることは確実だ。そしてこれが、現状唯一の手がかりなのだ。多少の危険があろうとも、見逃すわけにはいかない。

 アンから教わった場所を目指してフィオーレは階段を上る。城の奥の方へと進みつつ……違和感を覚える。

(パルセノはまず間違いなく、アーグム殿下の近くにいるはず。同じ部屋ではなくても、彼の目の届くところにいるはず。それなのに……彼女に教えられた場所は、王族の私的な部屋からは離れている……)

 そのことに思い至り、フィオーレは思わず足を鈍らせた。本当にこの先に進んでいいのだろうか。迷いが出てくる。

 そんなフィオーレの耳に、足音が聞こえてきた。誰かがこちらへやってくる。別に立ち入り禁止の場所ではないのでここにいて咎められるわけではないし、誰かが来てもおかしくないのだが、フィオーレはびくりとした。

 現れたのは、一人のメイドだった。フィオーレの知らない顔だ。

 メイドは首を傾げ、フィオーレに問いかけた。

「あの、どちらに行かれるのですか? この先は物置として使われるような部屋しかありませんが……」

「え……いえ、その……」

「もしかして、迷ってしまわれました? ご案内いたしましょうか」

「ええと……」

「どうぞ、こちらへ」

 メイドはフィオーレを誘った。……通路の、さらに先へ。

(…………!)

 フィオーレは背筋を凍らせた。

 まず、メイドから貴族に声をかけること自体がおかしい。落とし物を拾ったときくらいだが、それもなるべくなら侍女たちを介して伝える。道に迷って困っているらしい貴族を見かけても、ふつうは声をかけられるまで黙っているものだ。ここは立ち入り禁止の場所ではないのだからフィオーレが居ても咎める理由がない。城の者だろうと来客だろうと自由に歩いていていいはずなのだ。

 足を踏み出そうとしないフィオーレに、メイドは困った顔をした。「仕方ありませんね」と呟き、フィオーレは首筋に衝撃を感じ……意識が、途切れた。


 意識が、ゆらゆらとつかみどころがなく漂っている感覚に襲われる。フィオーレはその一端をかろうじて掴むようにして……意識が浮上した。

(……いったい、何がどうなったの……? ここ、どこ……?)

 痛む頭を押さえながら上体を起こし、周りを見渡す。石造りの壁が剥き出しになった部屋で、城のかなり奥の方、古い時代に建てられた建物の部屋がそのまま残っている場所だろうと思われる。高い位置にある小さめの窓から明かりが入ってくるが、全体的に薄暗い。

 どうやら床に転がっていたようだが、その床には敷物が敷いてあり、その上に布類が重ねられていた。そのおかげで体が冷え切ってはいない。部屋の壁際にある棚にも布類が仕舞われており、物置なのだろうと見当がつく。

(物置……その言葉を直近で聞いたような……、…………!?)

 意識がはっきりしてくるにつれて頭が回り出し、直前の出来事をフィオーレは思い出した。パルセノのところに行こうとしつつもこのまま進んでいいのかと迷っていたフィオーレを、廊下の先へと進むように促したメイド。彼女が近付いてきたと思ったら首筋に衝撃を感じて、そこから先の意識がない。

(わたくし……気絶させられたの!? そして、ここに閉じ込められたということ……!?)

 フィオーレは慌てて状況を確認した。

 とても出入りには使えない高い位置にある小さな窓、その出入口らしきものは戸が一つしかない。フィオーレは戸を開けようとしたが、案の定、開かなかった。体を縛められているわけではないが、小さな部屋の中に押し込められている。

(罠だったの……!?)

 パルセノを餌に、まんまとおびき出されてしまった。彼を取り戻そうとする試みがいっこうに進展しない焦りを突かれて、囚われてしまった。自分の迂闊さに歯噛みをする思いだ。

(でも……どうしてわたくしの身柄をこんなふうに拘束しようとするの……? 表に立っているわけではない、この身ひとつのわたくしなんて、ただの無力な小娘に過ぎないのに。……ソルクス殿下に対する人質、とか……?)

 そこまで考えてフィオーレは自嘲した。彼に対して自分が人質になれるかどうか、今となっては確信が持てない。

 そして、部屋の戸が外から開かれた。

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