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伝言

 舞踏会は、色々と得るものがあった。フィオーレは思い返した。

 一番は何と言っても、弟のパルセノに会えたことだ。彼は幼かったから姉の顔など覚えていないだろうし、こちらも成長した彼の顔を見たのは初めてだ。こういう形になってしまったが、会えてよかったと思う。

 同時に、彼を何としても助けないとという思いも強くなる。彼がロージアから離されてしまったのは間接的にフィオーレのせいだし、そうでなくても幼い少年が不本意な形で他国に留め置かれるのはつらいだろう。ましてあのアーグムの元だ。情操教育によろしくない。

(でも、どうやって助け出せばいい……? 隙を見て逃がしたところで、同じことの繰り返しになるだけだろうし……)

 使用人たちに協力してもらうなどして、パルセノの身柄だけを取り戻すことなら可能だろうと思う。だが、その後が続かない。ロージアに帰したところで再び呼び返されて終わりだ。アーグムはおそらくロージア側に圧力をかけてパルセノを連れ出したのだろうが、そうだとしても一応は正当な手続きを踏んでいることになる。要請して受諾されてという形だ。形の上だけのものだが、その形が大切だ。こちらも正当な形でパルセノを取り戻さなければ。

 フィオーレはその方法を考えつつ機会を窺うが、アーグムはのらりくらりと躱す。なぜかアーグムが焦っているような印象を受けるのだが、それでも主導権があちら側にあることは間違いない。

 パルセノに会えさえしない日々が続き、フィオーレの方も焦りを覚えてきた。状況は一向に好転せず、アーグムの狙い通りにフィオーレはモンティス王国に留められ続けている。しかも、ソルクスを巻き込んでしまっている。それなのに解決方法が見つからない。

 そんなときに――それは起こった。

『お姉さま……助けて』

 フィオーレの部屋を整えに来たメイドが、さりげなくフィオーレの手元に紙を滑らせるようにして押し込んだ。それに、そう記されていたのだ。

(パルセノ……!?)

 そのメイドが部屋を出て行ってから、他の使用人たちもいなくなったことを確認してから、念のためベッドの天蓋を下ろしてから紙を開き、フィオーレは息を呑んだ。弟からの、助けを求める手紙だ。

 フィオーレはパルセノの筆跡を知らない。文面は背伸びした子供らしい、しゃちほこばった筆跡で綴られているのだが、それを本当に彼が記したのか判断がつかない。

 だが、そこに捺されていた印璽が……蝋ではなく紙に直接捺されて特徴的な薔薇の形の窪みを作っているそれが、ロージア公子の持つ指輪によるものだということは疑いない。間違いなく、パルセノの手によるものだ。

(……一応、別の可能性もなくはないけれど……)

 たとえばアーグムが、文字を誰かほかの子供に書かせ、パルセノから取り上げた指輪で印璽を捺す形にした、と考えられないわけではない。おまけに、筆跡がパルセノのものであっても内容を押し付けられて書かされた可能性すらある。助けてというのが本当にパルセノの言葉なのか、書かされた言葉なのか、本人のあずかり知らぬところで他の者が勝手に書いていることなのか、これだけでは全く分からない。

 一つだけ確かなのは、放っておく選択肢は無いということだけだ。これがパルセノ本人の意思によって書かれた可能性が残る限り、フィオーレはこれを無視できない。

 フィオーレは紙を潰さないようにそっと折り畳み、代わりにぎゅっと天蓋を握り締めた。

(無策だけど、助けに行くしかないわ。パルセノが助けを求めているかもしれないのだもの。無視なんてできない。……たとえ一回で助け出すところまでは行けなくても、パルセノと話をしたいわ。何か重要な情報を持っているかもしれないのだし……)

 あの舞踏会の前から、フィオーレはパルセノの周りの情報を集めていた。ロージア公国に人を遣って、どういうふうにパルセノが連れて行かれることになったのか確かめたりもした。だが、詳しいことは分からなかったのだ。ロージア公家は一族の他の者に累が及ぶことを示唆され、仕方なしに世継ぎの公子であるパルセノをモンティスに行かせたという表面的な情報以外のことは出てこなかった。

 そちら側からの調べも手詰まりで、にっちにもさっちにも行かなくなっていた状況での、パルセノからの手紙だ。良くも悪くも状況を進めるその手がかりをフィオーレは大事に仕舞おうとして……裏側に小さく書かれた文字に目を留めた。

『ソルクス殿下には知らせないで。彼は信用できない』

 子供の字で、そんなことが書かれていた。

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